母は、水商売をしていた訳ではない。

しかし、パートの仕事を掛け持ちしていたので、帰りはどうしても遅くなりがちだった。

見知らぬ男子から告白された日も、私は3人分のご飯を用意した。

それまでは元気のなかった道哉だけど、いつも通り、美味しそうに食べてくれた。

「あ…」

私はふと気付いた。

そういえば、道哉のお母様が持たせてくれるお弁当は、いつも大きかった。

私と母は夜のうちには食べきれず、翌日に残りを食べていたぐらいだ。

「道哉、これだけじゃ足りないよね?今まで気づかなくてごめん」

「いいよ!お腹空いたら家でまた食べるし。それにしても…紫苑、料理の腕を上げたね」

「本当?」

「うん。うちの姉ちゃんなんて、全然料理できなくて、婚約してから家族の食事作って練習してたけど…あれは酷かったなー!それにひきかえ、紫苑はいいお嫁さんになれるよ」

道哉はそう言って笑った。