道哉は、ご飯よりお風呂が先のほうがいいタイプの人だから、先にお風呂を沸かして、とりあえず今日の作業はここまでにし、夕飯作りに取り掛かった。

「ただいま」

道哉が帰ってきたので、私は料理の手を止めて玄関に向かった。

「おかえりなさい!」

そう言って愛しい夫を強く抱き締めた。

「おいおい、なんかあった?」

そう言いながらも、私より更に強い力で抱き締めてくれた。

「ううん、色々思い出してただけ」

「大丈夫?つらくない?」

「つらいわけないよ、私はすごく幸せだから」

道哉は何で私が突然そう言ったのか、よくわかっていなかったようだが、

「風呂、一緒に入る?」

なんて冗談っぽく言うから、小声で、ばかね…と言って笑った。

私が、今でも一緒にお風呂に入るのは恥ずかしいことは道哉もよく知っていた。

しかし、それは単なる恥じらいだけではなかった。

本当は、子供の頃に父親から何ヵ所も煙草の火をつけられた火傷のあとを見せたくない、ということが大きい。

恐らくだけれど…道哉は既に火傷のあとのことを知っているだろう。

何しろ、もう13年もの間、夫婦をやっているのだ。

いくら、夜は部屋を真っ暗にしてもらっていても、私のほうがあとに起きたときに見られた可能性も充分にある。

ウェディングドレスも、火傷あとの見えない露出の少ないデザインのものにしたし、プールや海水浴に出掛けても、肌を殆ど見せない水着しか選ばない私だから、勘のいい道哉は気付いていたとも考えられる。

知っていて、気づかないふりをしてくれている道哉の優しさに、私はどうしたら同じだけの優しさを返せるのだろう?

こんなに愛してるのに、まだ愛し足りない気がしている。

風呂場から、道哉の調子外れの歌が聞こえてきた。

それは、よく聴くとバングルスだった。