私はハッと我に返り、深々と頭をさげた。
「すみません、私ったらなんて事を」

「大丈夫だよ、俺が悪いんだから」

「私、戸倉さんとは結婚出来ません」

私は彼に背を向けてドアの方へ走り出した。

「待って、行かないで」

彼は私の身体に触れない様にドアの前に両手を広げ立ち塞がった。

「美鈴がいいって思うまで触れないから、俺を嫌いにならないでくれ」

嫌いだなんて、私は戸倉さんが嫌なんじゃなくて……肩を震わせて涙が止まらなかった。

「美鈴、ごめん、泣かないでくれ」

彼は私の震えている私の肩に手を伸ばし、躊躇して引っ込めてを繰り返していた。



俺は美鈴との結婚を五歳の時から決めていた。

俺の母親は俺を産んでまもなくこの世を去った。

親父は程なくして再婚したが、俺は義理の母親には懐かなかった。

ある日、俺は迷子になった。

たかが五歳で既に反抗期だったのかもしれない。

一人でうちに帰れると信じて疑わなかった。

ところが道がわからなくなり、徐々に心細くなっていった。