漫画やドラマにあるような、ロマンチックなプロポーズ。
そんなものは興味がない。

そして私は知っている、自分がお酒に強いことを。
そして私は知っている。お酒に酔って歩けなくなることなんて、意識が朦朧とすることなんて、ただの一度もないことを。
むしろそんなの、酔っちゃったアピールする女子しかやらないんじゃないかと、心の奥でじつは思っていたりする。


「最終的にけっこう飲んだじゃん」

逢坂くんに申し訳ないと思って最初の一杯目は手が伸びなかったはずなのに、相楽に指摘されて気づく。
それなりにアルコールを摂取してしまった。…が、足取りはいたって普通である。

「罪悪感だぁぁぁ…明日からどうしよう…」

ほんのり涼しい夜風に当たっていると、だんだんと正気に戻ってくるものだ。
そして余計な話をベラベラとヤツにしてしまったことも後悔する。

恋愛観?結婚観?将来展望?
なんにせよ、全体的に痛々しくて恥ずかしい。
消え去りたい。


「逢坂がよっぽどヤバくない限りはとりあえず出社するだろうから、あとは仕事の様子を見てさりげなくフォローしていくしかないな」

スーツのポケットに手を入れて、相楽も少しばかり困った顔で逢坂くんの対応を考えてくれている。

この一連の騒動に単に居合わせたというだけでここまで付き合わせて、本当に彼には悪いことをした。
ごめんね、と素直に謝った。

「巻き込んでごめん…」

「別にいいよ、乗りかかった船ってやつ」

いや違うか、と相楽は立ち止まって言い直した。

「ちょうどいいチャンスかな、とも思ってるし」

「なんの?」

「いないんでしょ、彼氏」

「…誰の話?」

「大原の話」


途端に頭がグラッとした。

「えっ、ちょっと待ってもう今日はキャパオーバー」