名乗るのが遅くなりました。私は松森 瑚々(まつもり ここ)。今日、中学2年生になります。
前の学校で色々あった私は虹丘中学校に転校して2年2組になった。

でも、まだ皆、クラスの子達には会っていない。
一応、転校してきたから自己紹介を学年集会でするらしく、その時に"初めまして"になる。
今はその原稿というか集会でなんて言うかを考えてくるよう先生との顔合わせで言われたので少しずつ作業を進めている。

自己紹介なんて本当はしたくない。
友達が欲しい訳でもないし、学校生活を楽しみたい訳でもない。

だって私は病気をもっているんだもん。
でも私に喘息のようなみんなが知っている症状がある訳でもないから入院なんてする必要は今のところない。
ただ、珍しい病名が私の前にあるだけ。
だから問題を起こして親に迷惑もかけたくないんだ。
私が病気になったせいか、お母さんは正社員からパートの仕事量に減らして極力家にいるようになった。
今まで仕事が大変であんまり家で一緒に過ごすことがなかったお父さんも出張先から電話をたくさんかけてくれるようになった。
家族みんなが私の病気で生活を変えなければいけなくなったのだ。
だから、これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。
「名前と、前入っていた部活は絶対って言われたけど、他になにか言うべきことはあるのかな......」
考えていたらそれが口に出ていたのか、リビングで洗濯物を畳んでいたお母さんが〔虹丘中学校での楽しみなこととか意気込みとか言ってみたら?〕と言ってきた。
楽しみなことなんて......。
そんな言葉はもちろん口には出さず、
「確かに!それについて書いてみる!」と言っておいた。
今の私、ちゃんとワクワクしているような表情出来てたかな。
虹丘中学校の案内に学校行事等色んなことが書いてあったことを思い出して顔合わせの時にもらった資料を見ることにした。
「わぁっ。虹中祭ってのがあるんだ。文化祭のことかな。楽しそうっ!えっと、他にはっと......」
お母さんの前だからこんなふうに明るい口調で楽しんでいるけれど、明るい性格を演じるって結構疲れるかも。
そんなこんな思いながら行事等を調べて、いよいよ学年集会の日がきた。「2年2組に転校してきました。松森 瑚々です。
前の学校では、美術部に入っていたので絵を描くのが好きです。他にも本を読んだりして休みの日は過ごしています。虹中祭というものがこの学校では楽しみです。
これからよろしくお願いします。」
ふぅ。よかった。噛まずに最後まで言えた。
そう集会が終わったあと教室に戻りながら思っていたら机に着いた途端たくさんの人が机の周りに集まってきた。
急にたくさんの人に囲まれて、動揺したけど、その中の一人が私に話しかけてきてくれた。
「松森さん、よろしくね。私は佐藤 華鈴(さとう かりん)って言います。」
明るい口調で話すその子が口を開いた途端一気に周りがしゃべりだした。
賑やかな所はそこまで得意ではないけれど、これからここで性格を演じるために「うん!よろしくね!かりんちゃん!」と笑顔で言った。
そうして私は、仮の友達をたくさん作ることが出来た。 〔瑚々、新しい学校生活はどうだ?楽しく過ごせそうか?〕
夜。お父さんがそんな事を聞いてきた。
「うん!すごく楽しいよ!」と言い、初日の朝は友達がたくさん出来たことでお父さんと話した。翌日、新しいクラスになったので、各自隣の席の人と喋る時間が設けられた。
「松森 瑚々です。よろしくね。
『こちらこそ、よろしく。俺は宮槻 香澄(みやつき かすみ)です。女っぽい名前だけど男だからね。』
優しくはにかんだ笑顔がドラマで出てきそうな人ほどはにかんでいて、一瞬見惚れてしまった。
この時の私は知らなかった。

宮槻くんとの出会いが私の人生を変えることになることを"


香澄side
数ヶ月前、俺のクラスに転校生がきた。
今まで見た事がないくらい容姿が整っていて、絶句するほどの。
同じ学年にいる女子の中でダントツ可愛いと思う。
そんな子が隣の席なんて......。
あの子を見てて恋をしない男はいないんじゃないかと考えたほどだ。
実際。めちゃくちゃ羨ましがられた。同じクラスの男子たちに。
そんな見かけでしか判断できないやつに松森さんを渡すわけにはいかない。と謎の対抗心が芽生えた頃には俺は恋をしていたんだと思う。
試しに勉強会に誘ってみたら、快く承諾してくれたし。
そんな、いつもならなんとも思わない一連の行動が、あの子に対してはよく言う胸キュン的な感情に支配される。
小学校から周りにモテた俺は自分から誰かを好きになるどころかひとつの事に夢中になることがほとんどなかった。
だからこそ、松森さんを見た時に抱いた"好き"という感情が不思議で仕方なかった。
自分から誰かを好きになるなんて経験したことがなかったから。
香澄side fin