香澄くんと付き合い始めてから1週間、今日から待ちに待った冬休み!

......の予定でした。

冬休みが3週間ある虹丘中学校はこの辺では一番休みが長いことでも有名だったけど・・・。

休みが周りの学校より長い理由が今、分かった気がします。 何かって言うと......。

通信簿で9教科中4つ以上評定3がついていた生徒は2週目の1日目と2日目、3週目の1日目と2日目に補習があるのです。

まあ、オール3や3以上の評定が付いていた人の補習はもっと酷いらしいけど。

なんてハードな!

3って良くもなく悪くもなくって意味じゃん!......と泣き喚いても私の通信簿の評定は変わらない。明日からの1週間は発作のことで新しい検査、診察に治療薬の説明、もろもろ込みの検査入院だし......。

今年は、楽しみにしていた従兄妹のお兄ちゃんのハニバタトーストは食べれなさそう。

『ちゃん......、瑚々ちゃん!』

「わっ。えっ!?なに?」

『良かった。具合悪いのかと思った』

隣で『安心した。』と言っている香澄くんは、もちろん補習対象外。

私の冬休み・・・・終わった。

『ねぇ、瑚々ちゃんって補習あるんだっけ?』

「うん。」

この苦しみと寂しさ、いったい何にぶつけたらいいのだろうか。

『その補習さ、俺が教えよっか?』

ん......?

「え......?」

「多分できると思うんだよね。去年もそういうふうにしてる人いたから」

「香澄くんと補習?2人で?」

『うん。補習ってプリントらしいし。もちろん別室で、2人っきりだよ』

語尾が上がっているよ......笑。香澄くん......。

絶対突っ込むところそこじゃないけど。そういうことができるのか。虹丘中。それなら補習も辛くないかも。としかその時の私の頭にはなかった。

「そうする。よろしくおねがいします。」

『うん。あっ、でさ明後日のクリスマス、デートしない?』

「......デート!?」

『そう。電車で少しだけ遠出しy......

「ごめん。」

『え......?』

「明日から私検査入院なの。1週間......。」

『あっ、検査入院。良かった。』

ん......?良かった......?

「良かった。って?」

『いや、僕とのデートが嫌なんだと思って......。』

「そんなことない!絶対!」

『絶対?』

「だって、私だって検査でも入院したくない。香澄くんとデートしたい。」

『っつ。......相変わらず心わしづかみにするの上手いよね。可愛すぎる』

「え......んっ」

急に唇を塞がれて呼吸の準備ができてなかった。

......てか長い!

トントンと香澄くんの体を叩いてやっと離れた唇。っと思いきやペロって舐められた。

「香澄くん!ここ通学路!下校中!」

『うん。知ってる』

「いや、こういうのは......」

『こういうのは?』

っつ。ニヤニヤしてる......。分かってるくせに。

「ば、場所を考えて......」

『場所、考える必要ある?』

「ある!」

なんでそこを疑問に持つの?

『どういう場所ならいいの?』

ど、どういう場所......って。どういう場所だろう。恋愛未経験者の私には難題かも。

うーん。

『はい、時間切れ!』

「えっ!?んtっつ......。」

今度はすぐ離れた。

『人に見られたくないんでしょ?』

キスのあと聞かれたことに呼吸を整えられてない私はコクコクと頷いた。

『いいよ守ってあげる。なるべく人のいないところでする』

「うん。そうして......ってなるべく。とは!?必ずじゃないの!?」

空耳だと思いたい。

『当たり前でしょ。君が可愛すぎて僕の気持ちがおさまらなくなったら破っちゃうかも』

そ、空耳じゃなかった......。

「おさまらなくなったら......って。抑えてよ!」

『はは......。うんごめん今のは、からかった。』

「なっ」

『その代わりさ、明日からの入院、お見舞い行っていい?』

「え......?でも、遠いよ?」

県内だけど、ほぼ県外って言ってもいいくらい県境だし。

『関係ないよ。お見舞い、行くから』

「うん。ありがとう」

『......やっぱ可愛すぎる。無理』

「え......って香澄くん!?」

手を引っ張られてそのまま走っていく香澄くんに連れてこられたのは通学路途中にある公園だった。

そのままベンチへ誘導されて隣に座った。

『あのね、正直、瑚々ちゃんの病気知ったときさ。どうして瑚々ちゃんがって思った。

 でも、病気だからって病弱な姿は一切見せない瑚々ちゃんのこと強いんだな。って

 思った。』

強い。そう彼は言った。私が一番言われたくないと思っていた言葉を。

言われたくないなんて香澄くんにはもちろん言ってない。でも、

「ごめん。今日は帰るね」

『え......!?』

そう言って一方的に走って帰ってきちゃった。

香澄くんが止めようとした行動に目もくれずに。

どうやってあの後香澄くんと話せばいいか分からなくなって乱れる呼吸を整えながら玄関の扉を開けた。

「ただいま。」

「おかえり。瑚々。遅かったね。」

「うん。ちょっとね」

お母さんは香澄くんと付き合っていることを知っているけど今日のことは言わないでおこう。言ったって何も変わらないから。

「瑚々、明日からの準備しなさい。袖の捲りやすいパジャマ忘れないでね。」

「うん。」

1週間も入院する検査ってどれだけ身体に負担がある検査をするのか怖いけど採血は必ずするはず。

だから、袖の捲りやすい服は必須物だった。

早く準備をしないとなのに......。

目の前が涙で潤んで滲む。

「瑚々、具合悪いの......?」

「ううん。大丈夫」

「そう、なら準備してきなさい。今日は瑚々の好きな夜ご飯だから」

「分かった。」

そう言って部屋に来たけど、明日香澄くんお見舞い来るって言ってたのに病院の場所も名前も教えてないな。

一方的に帰ってきちゃったこと怒ってるかな。

っつ......。うぅっ......。

泣いていい資格なんて、香澄くんを置いてきた私にないのに......。

香澄くんのことより、明日の準備のほうに意識を持っていこうとしても......上手く出来ない。

下から話し声が聞こえる。電話かな。

電話しているというほうに意識が移った途端、涙が流れを止めた。

今のうちに......。

えっと、バック......。あっこれか。

入院したとき用の少し大きめの。前に買ったんだよね。

んと、パジャマと着替えとタオル......かな。きっとこれで大丈夫。

検査......悪化とかしてないといいな。

悪い場合のことを思い出して、不安と恐怖を感じたので少し寝ることにした。

ベットに入ってすぐ意識を手放した冬休みの始まりの日。



香澄side

遡ること10分前

僕の発言が傷つけた原因であろう彼女の家に電話をかけていた。

3回目のコールで聞こえた相手の声。

「はい。松森です。」

『あっ、お忙しい時間にすみません。宮槻です。』

良かった。電話に出たのが彼女じゃなくて。

「ああ、香澄くん。ちょっと待ってね瑚々呼んで来る。」

『あっ、大丈夫です。今日はちょっとお母さんに聞きたいことが......。』

「あら、どうしたの?」

『瑚々さんの入院する病院を教えてもらえませんか?』

「えっ?病院?どうして?瑚々から聞いてないの?」

いくら彼氏だからって不審に思わせてないだろうか......とそれしか考えられなかった。

『瑚々さんからは明日から検査入院だって聞いたのでお見舞いに行こうかと』

「ありがとう。でもかなり遠いのよ。」

瑚々と同じことを言われた。でもここまでは想定内だ。

『行きたいんです。お願いします。』

「そう。じゃあ......」

そういって、病院の名前を教えてくれた。

家にある電話からかけていたから聞きながら手に持っていたスマホで行き方を調べた。

けど......。

確かに遠いな。と正直思った。

電車で1時間弱。その後バスに乗り換えて30分。バスを降りても30分弱歩かないといけない場所だった。

でもかなり大きい病院みたいで驚いた。

『ありがとうございます。』

お礼だけ言って電話を切ったけど明日のお昼前に出て午後には着くようにしたいな。

今日のこと話して謝りたい。

傷つくようなことを言ってしまったのは僕だし、彼女のこと理解しておきたい。

色々考えたまま準備して母親に、『明日瑚々のお見舞いに行く』と伝えると何か持っていきなさいと、お見舞いを買うお金を渡してきた。

ありがたく受け取って明日の発車時刻を調べたり瑚々の今日の様子を思い出しながら

明日、なんて言おうかとか喜びそうなものを売っているお店を探した。

瑚々、僕のこと嫌いになったかな......。

瑚々のことになるとそういうネガティブな気持ちに飲み込まれそうになる。

でも、仲直りしたい。

その一心で準備を進めた。
香澄side fin.


                   
「はい。お疲れ様。腕、楽にしていいよ。しばらく安静にしててね」

「ありがとうございました。」

たった今、検査入院してから1番目の検査、採血が終わったところ。

今まで、検査にくる度に採血はしてるから、こんなこと言うのも可笑しいけど慣れた。

痛いとも感じないし、怖い、嫌だとも感じなくなった。

採血を受けると、少しの間激しめの運動はしてはいけないから私は自分の入院している部屋に戻った。

「あ、おかえり。瑚々。大丈夫だった?」

「全然大丈夫だよ。もう慣れちゃった。」

検査に行ってる間にお母さんは着替えなどの整理整頓を終わらせておいてくれたのか持ってきた鞄がからっぽで、時間もお昼をまわっていた。

ベットに入って横にはならなかったけど食事用の机を引っ張って落ち着ける体制をとった。

こうしてると、どうしても大好きな人に会いたくなる。

でも、私から一方的に離れてメッセージさえも既読もつけずに放置してるのに会いたいなんて送れない。

お母さんは「飲み物を買ってくる」と言って部屋から出て行ってしまったので

ふぅ。と息を吐いて窓の外を眺めた。

都会とは言えないけど街のむこうに小さく海が見える。

景色をみて、窓側のベットであったことを嬉しく思えた。

そろそろ、次の検査の時間になる。

次は最近痛みを感じた首から頭部にかけての写真を撮ると言われていた。

次ばっかりは、決められた検査着があるので、それに着替えようと引き出しの中をあさった。

私が入院することになったのは2人部屋。だけど、同じ部屋に入院している子はいないので実質1人部屋ってことになる。だけど、一応カーテンでベットを囲う。

そのとき、部屋の扉がノックされ誰かが入ってくる気配がした。

お母さんが飲み物を買いに行っていたので、お母さんが帰ってきただけだと思い検査着を見つけて取り出した私は目の前のテーブルに置き引き出しの中にあったものを戻す作業を続けた。

数秒後に自分に何が起こるかも知らずに。

『瑚々ちゃん、いる?』

え......?

カーテンで囲っているベットの外から聞こえた声と映るシルエット。

おそるおそる、声のほうを向き「はい。」と返事をする。

シャーっとベットの周りを囲っていたものを開くとそこには私が、間違えるはずの無い大好きな人の声、姿。

今、私が一番会いたいと思っていた人がそこにはいた。

「香澄くん......? なんでここに......。」

申し訳ないような顔をしてからいつもの微笑む顔をした香澄くん。

『おはよう。ごめん。勝手に来て。体調は大丈夫?』

なんで......。

もちろん嫌ではなかった。けど......。

『あっ、君のお母さんに聞いたの。ここの場所。』

そう言ってくれたけど、あんなことがあったから、どんな顔をして香澄くんを見たらいいかが分からない。

黙って俯いていると、今度こそ飲み物を手に持ったお母さんが帰ってきた。

「あ、香澄くん。いらっしゃい。早かったわね。来てくれてありがとう。」

『こんにちは。おじゃましてます。』

お母さんから聞いたって言ってたからもちろんお母さんは動揺一つしてない。

「瑚々、飲み物ここに置いとくわね。お母さん、先生に呼ばれてるの」

「あ、うん。ありがとう。」

香澄くんもゆっくりしていっていいからね。と言いながら近くの椅子を香澄くんの近くに出し、座るよう促してから少し急いだ様子で部屋を出て行った。

香澄くんは椅子に座ると私のほうを見て、

『昨日はごめん。きっと俺の発言で君を傷つけちゃったんだよね。』

何も教えていなかった私が悪いのに香澄くんに謝らせてしまった。

「わ、私のほう、こそ、ごめんなさい。」

香澄くんに届いたか分からない声でしか今は喋れない。

もう、俯いているしかできなくて手をぎゅっと握った。

そしたら、そっと私の握っている手を香澄くんが包んでくれた。

『君のこともっと知りたい。何でもいいから。』

少し震えた声で言った香澄くんの何でもという言葉に今は甘えていたかった。

「私ね、昨日、香澄くんに"強い"って言われたのが、嫌だったの。」

『え......。』

不思議に思っている声が聞こえても今は最後まで話すと決めて話し続けられた。

「私は病気だから、弱いと負けちゃうの。病気にじゃなくて自分の心に。だから、嫌でも、無理をしてでも強いままでいなくちゃいけないの。」

『うん。』

香澄くんは今も優しく手を握り続けてくれている。

「でも、香澄くんにどんな私でも好きって言われて少し甘えちゃったの。
香澄くんの前だと、無理して強い自分でいるのが辛いの。」

ただ、『うん。』と言い続けながら手を握り続けている香澄くんに対して体の細胞全部が好きだと声をあげているような気がした。

「だから、香澄くんの前だけは強い自分でいるのをやめようって思ったの。」

だから、......

「わ......私は......強いね。って言われたくなかった。私は強くなんかないの!」

久しぶりに大きな声を出したからか、軽い頭痛が体を襲い、咄嗟に目をつむった。

『瑚々ちゃん。辛いの?ごめんね。大きな声出させるようなこと聞いて。あと、話してくれてありがとう。』

そう言って香澄くんは私の背中をさすりながら私を真っ直ぐ見た。

『ごめんね。嫌な思いさせて。』

俯いている私は『瑚々ちゃん』と呼ばれて香澄くんを見ると同時に唇に何かが触れてちゅっと小さな音を鳴らした。

でも、嫌じゃなかった。

香澄くんの優しい口付けを受けて頬に一筋の涙が零れた。

『ご、ごめん!』

焦った香澄くんは慌てて私から離れようとしたから私は香澄くんの服の袖を引っ張って、行かないで。と目でうったえた。

『え......?』

「これは、嬉しい涙なの。だから、離れないで。......会いたかった。」

香澄くんは立っていたからベットにいる私は自然と上目遣いになっていることを忘れ香澄くんを見た。

会いたかったから。嬉しかった。来てくれたことが。

香澄くんは動揺した顔で喉をごくりと動かした。

『どこにも、行かないよ。行かないから袖......離してくれる?そろそろ、マジでヤバイ......。』

何がやばいのかなんて分からないけど、どこにも行かないと聞いたからそっと袖を離した。

『瑚々ちゃんに、ひとつお願いがあるんだけど、言ってもいい?』

香澄くんにはいつも助けてもらってばかりだから、コクンと頷いた。

『俺さ、もっと瑚々ちゃんのこと大切にしたいから、何でも言ってほしい。

 辛いときは、辛いって。嫌なときは嫌だって。教えてほしい。怖いことでも、好きなことでも、嬉しいことでも教えてほしい。瑚々ちゃんが大切だから。』


大切っていうのは、必ずなくちゃいけないものじゃなくて、あることで生きることが楽しかったり心の支えになるものや人、感情を大切っていうと思う。


前に私が無茶だと思っていた質問の答え。香澄くんがもう一度言ってくれた気がした。

私のことを大切って言ってくれて、今は嬉しい。2回目の告白のときは変なプライドみたいなので素直には喜べなかったけど、今は違う。

「私も......。香澄くんのこと大好き!大切な存在だよ。」

おもいきっていってみたけど......めっちゃ恥ずかしい......っ!

もう一度香澄くんをみると、優しく微笑んでくれて・・。

あー幸せだなぁ......。って深く実感した。

微笑みかえしたら香澄くんの顔が少しずつ近づいてきたので、これから何が起こるのかを理解し私もそれを受け入れようと目を瞑って準備万端......。

コンコンッ

「失礼しまー......って。あっ......。」

入ってきたのは看護師さんで入り口で赤面したまま動かない......。

香澄くんに人がいることを知らせて今は我慢してもらった。

仕方ないよね......。

「あの、何か......?」

あっと言って我の返った看護師さんに用件を聞くと

「松森さん、検査の時間になっても、検査室に来ないので来る途中で何かあったのかと・・・」

ん......?今何時......?

おそるおそる、時計をみると、検査開始予定時間を30分以上も過ぎていた。

「あっ、すみません!何も・・大丈夫なので......はい。」

すぐに行きます。と伝えて先に行っててもらった......けど、

『検査......?』

なんとなく寂しそうな子犬のように見える香澄くんを抱きしめたい衝動を抑え返事をする。

「うん。ごめんね。」

机に置いてた検査着をもって準備をはじめたけど、香澄くんは一向に帰ろうとはしない。

「帰らないの?」

ここ、住んでるとこからすごく遠いのに。

『瑚々ちゃんのこと検査するとこまで送ってから帰る』

え......。

『ダメ......?』と今度は泣く子犬のような目で見てきたら断れない。

「いいけど、私これに着替えてから行かなきゃだからちょっと外で待ってて。」

ベットで着替えようとカーテンで閉めようとした。

『手伝うよ......っ。』

「えっ!?って、ちょっと!」

一番上に着てる服の中に手を入れてきたので......

「ダメだって!」

そう言って、押し返してしまった。......けど

『冗談だよ。まだ中学生なのにそんなことするわけないじゃん。てかそーゆーこと瑚々ちゃん意識したりするんだね。もちろん俺はしたいけどねっ!』

......っ!そんな笑顔でそんなこと言わないで。ほんと学校にいるときと変わるよね。印象というか言葉......?

「と、とにかく、外で待ってて!」

そう言いながら香澄くんをカーテンの外に追い出した。

良かった。今度は大人しく外に......と思った予想はあっという間に破られて。

ギシッと隣のベットが軋む音。

「香澄くん......?外、部屋の外行ってて?」

少々、怒り気味に言ってみたけど彼には少したりともダメージがきいていない。

『えー。瑚々ちゃんの着替えてるとこシルエットで楽しんじゃダメなの?』

いま、着替えてるところって......。てか楽しむものじゃないし!

セクハラにあたいしないの!? 何言ってんだか......

「とにかく、ダメ!」

ちぇっ。と聞こえた気がしたけどきっと空耳。

ささっと着替えてベットから降りたけど、香澄くんの姿がない。

帰っちゃった......?

ヤバッ。悲しくなってきt......。

ギュッ。

え......?

『大丈夫。勝手に帰ったりしないよ。』

後ろから、抱きしめられながら耳元でそう言った香澄くん。

「もう。どこにいたの?」

君の部屋のお手洗い。と言って苦笑いしてるけど。

ホントに、ホッとした。

抱きしめられた勢いで涙なんかすぐ引っ込んだ。

『いまからするのは、何の検査?』

検査室に向かいながら、香澄くんはそう聞いてきた

もう、嘘をつく関係ではないから......と思ってきちんと話した。

「身体に電気みたいなのを流して骨とかを透かすことで神経とか内臓とかの異常がないか写真をとる検査だよ」

と痛みを感じる検査ではないから明るく言ったけど、

そっか。としか返ってこなかった。

何か間違ったかな......。と思って顔を覗こうとしたけど

『あっ、明日も来ていいよね?』

そう言う香澄くんの言葉でやめた。

「いいけど......つまらないよ?」

病院に元気な人がきても、何もすることないのに......。

『つまらないわけないよ。瑚々ちゃんがいるのに。』

っつ!なんで、そんな恥ずかしくなるようなことサラッと言っちゃうの?

嬉しいけど......。

「分かった。待ってるね。」

『うん。』

そんなこと話してるうちに着いてたみたい。あっ、ここだ。と思い部屋の名前を確認した。

"5階第3検査室"うん。ここで間違いない。

「じゃあ、香澄くん、ここだから行くね。」

『あっ。うん。また明日』

「またね。」

そう言って検査室に入っちゃったけど、なんか香澄くん元気なかった......?



香澄side

「骨とか透かして神経とか内臓とかに異常がないか写真をとる検査だよ」

彼女は明るい口調でそう言ってたけど、普通の人ならそんなことしないよ......。

やっぱり、彼女は病気なのか......?

病院のドアを開けて外に出た途端に色んな感情が込み上げてきた。

なんで、なんで、瑚々ちゃんが......病気なんて。

フラフラと近くのベンチに行こうとした。

「香澄!!」

急に名前を呼ばれて声のほうを見たら母親がいた。

『母さん、なんでここに?』

「なんでって、迎えに来たのよ」

『あ、......。ありがとう。』

そうだ、もう4時を過ぎていて今は冬だから日が落ちるのが早いんだ。

「早く乗りなさい。」

うん。と返事をして、車に乗り込んだけど

「瑚々ちゃん、大丈夫だった?」という母親の一言でまた気持ちが込み上げてきて。

頬を涙が伝った。

泣いても状況は変わらないのに止まらない涙。

珍しく泣いてる俺を、バックミラーで見た母親は静かに息を飲んで車内は沈黙に包まれた。


ん......。

「あ、香澄、起きたのね。」

その母親の声で自分は車で寝ていたんだと気づいた。

起きたのはもう家の近くで、体制を直した。

『あのさ、瑚々ちゃん、無理して笑ってたんだ。』

こんなこと、言ったって仕方ないけど、今は話したかった。

そうしてないと、いつまでも恐怖心がなくならないから。

「そう。」

今は、話を聞いてくれるのだろう。母親はそれ以上返事をしなかった。

『俺は医者じゃないし、瑚々ちゃんを......瑚々ちゃんの病気を治せるなら、将来医者になりたい。とも思ってる。』

でも......瑚々ちゃんの病気は外国でしか発症を多く確認されていないから。治ることは難しいって。でも、命に関わることもあるって......。

治る可能性が高くないのに......命に関わるとか。どうかしてるだろ。

「なら、あなたが本当の笑顔に変えればいいじゃない。彼氏なんだから。」

え......?
急に話し出したことに驚いたけど、それより驚いたのは母親に付き合っていることを話していないのに「彼氏なんだから」と言われたことだった。

でも、今注目すべきポイントはそこじゃない。

瑚々ちゃんのほんとうの笑顔......。

『そんなこと、どうすればっ!』

「傍にいればいいの。」

傍にいる......。瑚々ちゃんの近くに......?

「人ってね、大切な人が傍にいてくれることが一番安心するのよ。」

『瑚々ちゃんもそうなのかな......?』

ぼそっと呟いた声はきこえていたらしく

「そのはずよ。」

家に着いた車を車庫にいれながら落ち着いた声で教えてくれた。

近くにいることで安心......。そんなの俺のほうだ。

明日、今日より早く行こう。

「明日から、母さんも冬季休み期間だから送るわ。病院まで」

なんで......と聞こうとしたけど

「また、あなたが泣いて転びそうになったら大変だから。」

それは......心配で?それとも、ただからかってる?

まあ、どっちでもいいや。

『ありがと......。』

送ってくれることは普通に嬉しいから甘えておくことにしたけど

母さんは、きっと俺のことなんでもわかってるんだと思う。

辛いけど、お見舞いには行きたい気持ちも

そう思ったから素直になれた。

車を降りようとする母さんを追いかけて車から降りた。一番素直な気持ちで明日会いに行くから、待っててね。瑚々ちゃん。

       香澄side Fin


ん......。ここ、どこ......?

うっすらと窓から注ぐ太陽の光で目が覚めた。

あ、そっか。昨日から検査入院してるんだった......。

昨日、香澄くんとちゃんと仲直りもできて、もっと・・・香澄くんのこと好きになった。

今日も香澄くんきてくれるって言ってたから、もう1日が始まるのが嬉しい。

トントンッ。

ん......?誰だろ。まだ朝の9時......って、もう朝の9時じゃん!

「は~い。」

部屋をノックして入ってきたのは私を担当してくれる看護師さん。

「おはよう。瑚々ちゃん。体調悪くない?これ、朝ごはんね。」

そう言って私の机に朝ごはんを置いてくれた。

「もう、めちゃくちゃ元気です。ありがとうございます。」

20代くらいの若い看護師さんは、「それはよかった。」と言って帰ろうとしたけど何かを思い出したような素振りをして道を引き返してきた。

「今日からね、この部屋に新しい子がくるから、よろしくね。」

「え、あ、はい。」

「うん。じゃあ、何かあったらナースコールで呼んでね。」

きっと、他の部屋にも朝ごはん置きにいくんだろうな。少し焦った感じで部屋を出て行った看護師さんを見てそう思った。。

新しい子かぁ~。1人だと静かで退屈だったから楽しみ。


朝ごはんをたべおわって少しした頃、お母さんがきた。

「おはよう。」

「おはよう。お母さん」

いつも通りの挨拶をしてお母さんから今日の1日を聞く。

「今日は検査はないわね。星城先生の診察を受けるくらい。」

「うん。わかった。」

「今日は、香澄くん来るの?」

「うん。お母さんが休みだから送ってもらうって。さっき出発したって連絡あったよ」

「そう、良かったわね。」

「あっそうだ。お母さん!今日からね新しい子がこの部屋に入るんだって!」

嬉しい知らせは知らせておきたい。

「あら、そうなの!?知らなかったわ。」

じゃあ、その子がどんな子なのか聞いてくるわ。って言ってなんか嬉しそうに部屋を出てった。

どんな子かなぁ~。女の子......男の子......?

楽しみだなぁ~!


香澄side

「じゃあ迎えは、夕方くらいでいい?」

『うん。』

「いってらっしゃい」

『いってきます。』

母親に送ってもらって、冬休み中は瑚々ちゃんのお見舞いにくることになった。

一般的には思春期という年代の俺にとって車の中で母親と2人っきりとか拷問かと思ったけど、そこを乗りきれば1日瑚々ちゃんと一緒だ。

『502号室の松森瑚々さんって今検査とか行ってますか?』

部屋にいっていなかったら意外と焦るから一応ナースステーションに聞くことが必要になる。

「今は、お部屋にいると思いますよ。」

『ありがとうございます。』

502って端のほうなんだよな。早く瑚々に会いたい。

あ、瑚々ちゃんに何か買ってこうかな。

この病院は大きすぎるからか売店が各階にある。。

本......は瑚々ちゃんの好みがあるだろうし、お菓子......も、どんなものなら入院中に食べていいのかとか分からない。

瑚々ちゃんに聞いておけばよかったな。

結局、何も買わずに売店を出たけど、あっ!飲み物なら......と思って小さめの瑚々ちゃんの好きないちごミルクを買った。

昨日、瑚々ちゃん飲んでたし、好みは大丈夫な気がする。

いちごミルクを持って瑚々の部屋に向かうとなんか色んなものが運び込まれているのが遠くを歩いていてもみえる。

まあ、瑚々ちゃんに関係はないだろうし、このいちごミルク、落とさないように行こう。


この数分後に瑚々ちゃんに対して明らかな嫉妬心が芽生えることを知らずに......。

そして、瑚々ちゃんの可愛すぎる我儘をきけるなんて思ってもなかった。