鬱陶しかった梅雨も明け
暦の上では7月となり、まさに夏本番。

私、蓮見詩菜は
この家に引っ越してきてから1ヶ月が経ちました。
暑さに負けず今日も頑張っています。

悩みが1つ出来てしまいましたが―――


*****


「おはよ、詩菜」

いつも通りに3人分の朝食をテーブルに並べていると
黒いTシャツにワイドパンツを《《こなれた》》感じにカッコよく着こなし、微笑を浮かべながら氷彗がキッチンにやってきた。

「おおおおおはよう…ございます」

思わず数歩後退しながら
明らかに挙動不審の返答になってしまう。

そう。
悩みの原因は、この男…西園寺氷彗。

彼の父親との揉め事に関わり
最後は丸く納まって乾杯をした、あの夜。

ほろ酔い気分で楽しく飲んでいたはずが
突然、氷彗からの抱擁と愛(?)の告白を受けてしまった。

その後、当の本人は
『俺の気持ちを伝えたかっただけだから』とだけ言って、体を離して部屋へと戻っていってしまったけれど…
残されたこっちは、もうずっとドキドキしっぱなし。

表情も最初に比べて優しく穏やかになっているし
そもそも”他人に興味がない”はずじゃなかったの?


困惑と動揺に惑わされている私とは裏腹に
氷彗は何事もなかったように涼しい顔をして席に座る。

さすが動じない男だな。