成り行きだったのか
ほぼ強制的に決定させられた親子喧嘩の見届け役。

翌日は氷彗の車に乗り込んで
向かった先は彼の実家。
病院から車で10分くらいの距離で
壮大な敷地を含め“大富豪のお屋敷”と言うのにピッタリな立派な建物。

「まるで旅館……」

“いいとこのお坊ちゃん”の実家が
ここまでとは予想外。
女将さんとか出てきそう。

圧巻の規模に愕然としていたが
氷彗が先を行くからすぐに追い掛けて内庭へと進むと
ガラガラガラガラ…と引き戸の開くと音と共に
玄関からベージュの着物を着た40代~50代くらいの
清楚な女性が出てきた。

「氷彗ッ」

こちらに気付いた女性は
上品さを残しつつ小走りにやってくるから
私でも誰だかすぐにわかる。

「母さん…」

旅館の女将…もとい
氷彗の母だ。

「氷彗…元気だった?
 貴方に会いたかったわ。
 来てくれて本当に良かった…」

息子に会うのが久々なのだろう。
ウルっと目に涙を溜めながら
嬉しそうに安堵の表情を浮かべている。

それなのに氷彗は神妙な面持ちのまま。

「…あの人は、いる?」

「あ、うん…
 お部屋の方に…」

「…わかった」

スタスタと歩いていってしまう、
そんな氷彗の後を追い掛けたかったけど
さすがに初対面の母に挨拶もせずにお邪魔するのどうかと思い、先に自己紹介をする事に。