<グスタフ皇国・大広間・交流会最終日・10時>

大広間に参加者が集められ、
成績発表と表彰が行われる。

グスタフ皇国が1位で、
主催国としてのメンツを保った。
最下位はもちろん魔女の国だ。

クラリスはいなかった。
アンバーは約束をすぐに果たした。

あの後、
戻ってすぐにミエルの心臓を
返してやった。

父上に何か言われるかもしれないが、その時は薬草リキュールで
話をつければいい。

アンバーはクラリスに、
直接この事を話したかった。


午後のパーティの時も
アンバーはクラリスの姿を
探したが・・・いない。

いつかの池の畔に、いるのではないか・・
アンバーは
何とか会場を抜け出した。

池の畔に誰か立っている。
クラリスではない。
長身の男・・イーディスだ。

先にイーディスがアンバーに
気が付いた。
「これは、これは、グスタフ皇国の王子さま」

イーディスは大袈裟な身振りで
頭を下げた。
「イーディス、
お礼を言わなくては!」
そばにはミエルがいた。

「ミエルを開放していただき、
ありがとうございます。
どのようにお礼をしたらよいか・・」
アンバーは冷静に言った。

「君のためではない。
クラリスと約束したからだ」
イーディスは
ミエルの手をしっかり握っている。

そして幸せそうなミエルの顔。
こんな美しいミエルの笑顔は
見たことがない。

アンバーは
ミエルから視線をそらした。

イーディスはいささか皮肉っぽく
「さしでがましいですが・・
クラリスはいい子です。

それにあと1年すれば、
飛びきりの美人になるでしょう。
母親に似てね」

成人になれば・・
皇太子のあなたと会う時は、
必ずババぁの姿になっている。
・・残念ですが」

この使い魔は
イライラさせるのが上手い。
「だから・・何なんだ」

アンバーはイーディスの目を、
睨み(にらみ)つけるように見た。

イーディスは
いかにも<こいつは馬鹿だ>、
と見下すように
アンバーに向かって言った。

「今しかチャンスがないと
言っているのです。
それに
クラリスは今弱気になっている・・つけこむチャンスでもある」

「グスタフの男は、卑怯な真似をしないっ!」
アンバーが怒鳴った。

「イーディス!だめでしょっ!
挑発しては!」
ミエルが、すかさずイーディスの
背中をたたいた

にやけたイーディスの顔が
憎たらしい・・
アンバーは思った。

「アンバー、
クラリスはもう出発するの。
あなたのペンダントを
どうやって返そうか考えている」

ミエルがアンバーに語りかけた。
「クラリスは
あなたにもう迷惑をかけたくないって、思っているから」

アンバーは拳を握りしめた。
「もう、二度とチャンスは
訪れない・・
クラリスともう会えなくなるの」
そう・・
父上のように、会ってもわからないだろう。
いつ消えるかわからない・・・
魔女の国。

「ミエル、クラリスは今どこにいるの?」
アンバーは
わざとイーディスを無視して、
ミエルに聞いた。
「案内するわ。・・こっちよ」

ミエルが動くと、
周辺の木々もざわめいた。