(栗原真由side)

 昼休みを告げるチャイムが静かな校舎の中に響き渡る。

 私はお昼ご飯を食べているいつも友達たちに断りを入れ、遥香と約束をしている場所へと急いで向かった。

 昼休みだけ解放されている屋上にあるベンチ。屋根なんてないから、気をつけて座らないと鳥の糞がよくついている。

 急いで階段を駆け上がり屋上へ出る扉を開けると、ベンチに先に到着していた遥香がこちらに気づき小さく手を振っていた。

 緩くふわりと巻いた綺麗な亜麻色の髪の毛が、ふわりふわりと風に揺らされている。揺れる髪が気になるのか、手を振っている反対の手で、なんとか髪を押さえ様としていた。

真由(まゆ)

 バスケを辞めて少し太ったのかな…中学生の頃よりも、頬がふっくらしている様に見える。それはそれであの頃よりも、いや、あの頃も女の子らしく可愛かったんだけど、今の方が女の子らしさが数段上がった様に思えた。

 私は鳥の糞がついていないかをしっかりと確認して、遥香の横に座る。

「廊下で話したりしてるけど、なんか、久しぶりって感じだよね」

「本当だね。だけど、真由とお昼ご飯食べるなんて、中学生以来だもんね」

 私と遥香はそう言うと、昨日のメッセージの続きの様な当たり障りのない日常会話をかわしながらお弁当を食べ始めた。

「あのさ」

 遥香は食べ終わった弁当箱を丁寧に片付け、恥ずかしそうにもじもじと指先を動かしている。

 どうやら、やっと相談したい事を話す気になったみたい。

 私は遥香が口を開くのをじっと待っていると、遥香は私の思いを分かったのか、おずおずと恥ずかしそうに話し始めた。

 話の内容は……
 
 遥香には現在、気になる男子がいて、その男子が私のクラスメイトだって事。その男子に彼女か好きな人がいるのかという事。もし、彼女がいなかったなら、連絡先が書いてあるメモを渡して欲しいという恋愛相談だった。

 私はその大役を引き受ける事を伝えると、遥香は私の手を握りしめとても喜んでいる。それから、私たちはその話題が終わっても久しぶりのお喋りを楽しみ、それぞれの教室へ戻っていった。

 教室へ戻るとクラスメイトたちに一声かけ、自分の席に座り、つぎの授業の準備を始めながら遥香の話しを思い出していた。

 なんだ、クラスに馴染めてないとか、いじめられてるとかじゃなくてよかったよ。

 私は、ふぅっと小さなため息をついた。

 窓際の席に目を向けたけど、あいつはまだ教室に戻って来ていない。昼休みになるといつも一人で出て行って、時間ぎりぎりに戻ってくる。このクラスに仲の良さそうな友達がいる様子もないし、ましてや、他のクラスにも友達がいる様子もない。

 どこかあいつは他人と積極的に関わる事を避けている感じがする。挨拶すれば返してくれるし、当たり障りのない質問なら答えてくれる。委員の仕事も普通にやっている。

 浅くは良いけど深くは嫌だ、そんな感じだ。

 同じ中学校の友達はいないのかな。

 そう言えば入学式後の自己紹介で、県内だけど遠くの中学校出身だって言ってた気がする。

 うちは県内私立では五本の指に入るレベルの特進コースが一クラスあるけど、特にスポーツの強豪でもなく、これといった特徴もない、どこにでもある私立高校。

 わざわざ遠くから受験し、入学する様な高校じゃない。

 昼休みにした会話を思い出す。

「なんで、あいつなの。友達も居ないみたいだし、全く遥香と接点ないじゃん」

 私は、思った事をストレートに聞いた。

「そっか……覚えてないんだ」

 遥香は少し寂しそうに微笑み、もうすぐ昼休みが終わっちゃうねと言うと、すっとベンチから立ち上がり私の手を引っ張った。

 遥香のあの言葉から、どこかで私たちは出会っていたのかな。でも、あいつと関わった記憶はないし、あいつも私の事を知っているなら、入学して一度くらいは声をかけるだろう。

「まぁ、とりあえず私は遥香に頼まれた事をやり遂げれば良いか」

 私は遥香から預かったメモを眺めながら、独り言の様に呟いた。