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 突き抜けるような青空の下、戦争が始まろうとしていた。オウガがふと空を見上げると、そこにはトンビが青い空を円を描くように飛んでいるのが見える。トンビはこれから人間が始める戦争という行いをまるであざ笑っているかのように優雅に飛んでいた。

 フィールド辺境伯領の平野に両国、一万人を超える人間が息を潜め戦争が始まるのを固唾を呑み、動向を見守っている。これだけの人間が集まっているというのに大地はシンと静まりかえり、自分の心臓の音がやけに大きく聞こえてくる。両国の騎士達は戦争開始を知らせる指揮官の合図を息を潜めて待っていた。


 そしてその時は突然訪れた。アリエント国側より空砲が打ち上がる。それは戦争の始まりの合図。

 アリエントの騎士達は怒号のような唸り声と共に、土埃を上げてこちらへと向かってくる。そんなアリエントの騎士達を見つめ、オウガは声を上げた。

「この戦、必ず勝利する!!皆分かっているな?行くぞ!!」


「「「「おおーーーー!!!!」」」」


 フィールド辺境伯領に騎士達の低い雄叫びが響き渡った。



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 それから一ヶ月が過ぎ、後方で陣を構えていたファルロはしびれを切らしていた。

「オウガと聖女は一体何をやっているのだ。もう一ヶ月だぞ、そろそろ結果が出ても良い頃なのではないか?」

 ファルロの苛立つ声の先にいるのは第一騎士団長のラルフ隊長だ。騎士団で鍛え上げられた筋骨隆々な彼は表情を変えずに答えた。

「どうやらアリエント軍にかなり苦戦している様子ですね」

「向こうに聖女はいないんだぞ。どうしてこうなる?」

「前線まで行ってみますか?」

 ラルフの言葉にファルロは眉をひそめながら頷いた。

 それを見たラルフは後ろに控えていた騎士に視線のみで合図を送り、ファルロが前線へと向かうことを皆に知らせた。


 この時が来た。

 戦争のさなか秘密裏に動き出す者達がいた。

 
 それはセリカ、オウガを巻き込む大きな渦となる。凶と出るか吉と出るか最後の賭け。

 これから一体何が起こるのか未来はどうなっていくのか、現時点では誰にも分からなかった。