翌朝、エルは食堂に来なかった。どうやら昨日のパーティで疲れたらしい。珍しく朝に弱いネリウスが起きていたのに残念なことだとミラルカは落胆していた。

「具合が悪いのか?」

「いえ、お疲れになっているだけのようですので、また後でお食事を部屋にお持ちすると伝えています」

「食欲があるならいい。今日は冷えるからホットショコラでも持っていってやれ」

「かしこまりました。……旦那様」

「なんだ。昨日のことなら聞いても話すつもりはないぞ」

「私もそこまで野暮ではありませんのでご安心を。ただ、少しエル様のご様子が変だったのではと……」

「変?」

 昨晩、ネリウスは自分のことで精一杯で正直エルの様子を気にしているどころではなかった。

 確かに異様に慌てた様子で部屋に帰っていったが────。

「俺がまた何かヘマをしたって言いたいのか」

「旦那様のことですから、ヘマをしたといっても喋らない、手も繋げない、褒められない、無愛想とかそんなものでしょう」

「……お前何気にひどいこと言ってるってわかってるか?」

「旦那様は女の扱いが死ぬほど下手くそですが、それでも最近はめざましく進歩したと思っています」

「褒めてるのかけなしてるのかどっちかにしろ」

「だから旦那様がとった行動がエル様を不快にした、ということは考えにくいと思います」

「じゃあなんだ。パーティが気に食わなかったっていうのか? まあ確かに面白いものじゃないが……」

「どうせ旦那様は他の男性陣からエル様が話しかけられないように始終ガードしてらしたのでしょう? じゃあその線も薄い……ダンスで失敗したのでしょうか」

「アイツは十分踊れていた。それこそ周りの男の視線を……」

 口が滑った、とネリウスはその先の言葉を言う前に口をつぐんだ。

 ミラルカは気にするふうでもなく話を続けた。

「とりあえず、様子を見てみます。朝食をお持ちする際にそれとなく伺ってみますね」

 ネリウスは珈琲に口をつけた。

 昨日はそれほど失礼なことを口走った覚えはない。むしろ自分にしては最大限に努力した。最上の褒め文句まで言えたことを褒めてやりたいぐらいだ。

 だがその中で何かエルの気に触るようなことをしてしまったのか?

 普段そこらの女をエスコートする時のようにやらなかったのが間違いなのか?

 手順を間違えたわけではないが、そもそもエルは貴族ではないからあのような場の常識を求めてはいけないかもしれない。

 ネリウスは考えても何が悪かったのか分からず頭を抱えた。