貴裕さんを部屋に案内した後、私はいったん、宿の裏手にある素子さんの家に行った。

 貴斗は雄ちゃんにお風呂に入れてもらって、夕飯に智雄さんお手製のオムライスを食べていた。

「美海、お疲れ」

 雄ちゃんが冷たい麦茶を手渡してくれる。それをひと息に飲んで、ずいぶん喉が渇いていたことに気がついた。三年ぶりに貴裕さんを前にして、それだけ緊張していたのだろう。

「ありがとう雄ちゃん」

「なあ、さっきの人ってひょっとして……」

 食事に夢中になっている貴斗を横目に、雄ちゃんが小声で言う。

「うん、貴斗の」

 全部言うまでもなく理解したらしい。

「……どうも、おふくろは知っていたっぽい」

「どういうこと?」

「あの人が来る前後、おふくろ変じゃなかった?」

「言われてみれば……」

 そう言えば、いきなり掃除を始めたり、私と目を合わせてくれなかったり。素子さんもなんだかそわそわしてる感じがした。

 と言うことは、素子さんは全部承知の上で、敢えて私を貴裕さんの迎えに行かせたんだ。