「……なんでだ?」

 朝になっても、美海からの電話もメッセージも来なかった。俺は彼女に、何かしてしまったのだろうか。いや、あれだけ無茶をさせておいて、何もしていないとも言えないのだが。

 出社のために身支度を整え、家を出ようとしたタイミングで、携帯が鳴った。ようやくかと、胸ポケットから取り出すと、かけて来たのは美海ではなく菅野だった。

「菅野か、どうした」

『常務、落ち着いて聞いてください』

 いつもつまらないくらいに冷静な菅野の声が、わずかに上擦っている。これは、たぶん只事じゃない。

「なんだよいったい」

『社長が……救急搬送されました』

「なんだって?」

 今まで病気ひとつしたことない父が倒れた?

「どういうことだ」

『それが……』

 菅野の話によると、地方出張の予定が入っていた父は、空港へ向かう車の中で気分が悪いと訴えたらしい。運転手が行先を病院に変更し、向かっている途中の車内で意識を失ったそうだ。

 予断を許さない状況で、緊急手術に入っているという。菅野は秘書室長からの連絡で知ったということだった。