「もっとペースを上げて走れ! 規定より一秒でも過ぎたら全員ペナルティだぞ!」


 騎士団の朝は早い。

 午前六時ぴったりに起床の鐘が鳴り、制服で整列した後に点呼が始まる。

 筋トレ、走り込みなどの基礎体力作りに、騎士として不可欠な体術、剣術。さらには乗馬の訓練もあり、毎日が目まぐるしく過ぎていく。

 もちろん覚悟はしていたし、トップレベルの騎士団での訓練は心休まる日などないと思っていた……が。


「聖女様、もう食べないのですか? 料理がお口に合わないようなら、デリバリーも検討しますよ」

「いえ、とても美味しくてほっぺたが落ちそうです。あまり食べすぎると、午後の訓練で動けなくなりそうなので、控えようと思って」


 入団して二週間が経った、とある日の昼下がり。ここはハーランツさんの自室である。

 薄いブルーの壁紙に、ビンテージ調の木目の床。彼の大人っぽくてクールな雰囲気にぴったりな部屋だ。

 革張りのソファに腰掛けて昼食をとる環境に慣れ始めているのが怖い。