『聖女様、お逃げください! ひとりで国を守るおつもりなら、ぼくが代わりに敵の元へむかいます!』


 頭の中に声が響いた。

 閉じたまぶたの裏側に映るのは、そこかしこで火の手があがり、崩れ落ちた城壁と割れたステンドグラスが散らばる惨状だ。

 目の前に華奢な少年が立ちふさがって、両手を大きく広げながら懇願している。

 少年の顔ははっきりと見えないが、声の高さやシルエットから感じる幼さとは反して、腰には立派な剣を携えていた。

 ぼんやりとした意識の中で、その光景だけが鮮明に浮かぶ。


『“眠りなさい、ーー”』


 少年に歩み寄った私は、地獄に似合わない子守唄を穏やかに告げ、倒れゆく小さな体を抱きとめるために手を伸ばす。


「きゃっ!?」


 次の瞬間、硬い床にぶつかった衝撃が体中に走った。

 はっと目を覚ますと、そこは見慣れた自室だ。先ほどまでの酷い光景はなく、窓の外には豊かな自然と穏やかな町並みが広がっている。

 小鳥のさえずりが新しい朝を告げていた。


「またこの夢……最近見ていなかったのに」