額を指先で押さえ、シルフィスは目の前の出来事を整理しようとした。
「えーと、君が『雷帝』?」
 シルフィスの問いかけに、少年が、うん、と頷く。
「えーと、ちょっと聞くけど、電気クラゲ、って呼ばれているのは?」
 途端、少年の笑顔が渋面に変わった。
「あ、それも、俺」
 テーブルに頬杖して、口を尖らせる。
「『雷帝』って呼べ、って言ってるのに、みんな、なかなか呼んでくんねーんだよなー」
「えーと、つまり」
 そういえば、虎の話をしてくれた男は、何回か電気ナントカと言いかけてから、あわてて『雷帝』と言い直していたような気がする。
「君は、みんなには電気クラゲと呼ばれているけど、自分では『雷帝』と名乗っている?」
「そうだよ」
「なんで」
 何の計算もなく、思わず聞いてしまっていた。少年は、あんた馬鹿? と言いたげに目を細めてシルフィスを見上げた。
「お客さん、電気クラゲと『雷帝』と、どっちがカッコイイと思う?」
 そりゃあ────。
「……『雷帝』」
「だろお?」
 だよねー、とシルフィスも認めざるを得ない。雷撃を操る異能は極めて稀少だ。もし、自分が目の前の少年の年頃で、雷撃の異能があったりしたら、やっぱり『雷帝』とか『雷(いかずち)の王』とか呼ばれたがるかもしれない。
 ……えーと、つまり、自分の前に座っているのは、稀少な雷撃の異能を持った、カッコイイふたつ名で呼ばれたい年頃の少年戦士、と。