その町は大きくも小さくもなく、美しい青い海に港を開いていた。
 空はよく晴れ、心地よい風が町を吹き抜ける。
 穏やかな真昼────だのに、町の中央にある広場に、人影はまったくなかった。
 人々は家に閉じこもって息を潜め、窓の隙間から広場を窺っている。
 誰もいない広場は、あちこちの屋台がひっくり返され、商品が散乱していた。その間を、のそり、と一頭の虎が歩いている。
 少し離れた場所で、サーカスのテントが傾いていた。
 倒れた屋台の陰で、小さな男の子が震えていた。半狂乱になった女が男の子の名前を叫びながら家から走り出ようとして、他の女たちに押しとどめられ、無理やり家の中に連れ込まれる。
 虎がゆっくりと体の向きを変えた。男の子が見つかるのは時間の問題だった。窓から覗く多くの目には、既に涙が浮かんでいたが。
 コン。
 虎の尻に小石が当たった。虎の目も人々の目も、小石の飛んできた方角を向く。
 広場の中央にある噴水泉の前に、ひとりの少年が立っていた。
 金色の髪が明るい日差しに輝く。人々の目がその輝きを捉えたときには、虎は猛然と少年に向かって走り出していて。