噴き出た黒い靄は、やがてその姿全体を包み込む。

濃度が濃くなって、見えなくなるぐらいに。



「だとしたら、とんだ甘ちゃんだな?詰めが甘いわ。いっつもね?」



翼の捨て台詞すら構わず、どんどん黒い靄が出現しては塊になっている。まるで黒い雲のようだ。



「いつも……いつも、ふざけやがって……!」



黒い雲の塊は、ある一定量になると……突然、音を立ててあっという間に霧散する。

許容量を超えて弾けたかのように。

そこに現れた姿とは、もうニセモノ韋駄天様の姿ではなかった。

屈強な肉体ではなく、線の細い体をした黒髪の青年へと変わっていたのだ。

それは、剣術大会の際に少しだけお目にかかった姿。

【擬態術式】を解いた……!



(架威……!)



光を灯さない冷たい瞳は、憎悪が込められたままで激しくこちらを睨み付けている。



それを見ていた傍聴観衆の方から、一斉に悲鳴に似たような叫び声がした。

【擬態術式】の事情を知らない者は驚くだろう。

韋駄天様だと思っていた人物が、成り代わるように別の人物の姿となっていたのだから。