その薄ら笑いは、とても不自然で。

私の見たことがない、韋駄天様の表情。

目の前にいる韋駄天様は、韋駄天様ではない。特級犯罪人・架威であると認識すると、それはもう違和感でしかなかった。

韋駄天様はいつも朗らかで、こんな不気味に笑わない。

……何故、みんな気付かないの?!



怒りでも侮蔑でもない、何を考えているかわからないその視線に囚われて、動くことを忘れていた。

まるで、罠にかかった獲物のように。



「舞空、身の程を知れ!おまえに目を掛けていた父上に歯向かうだなんて、許されないぞ!……舞空!」



元婚約者の罵声でハッと我に返り、視線の拘束から逃れた。

その後ろからは、朝霧様が次々と私を罵倒する言葉を並べる。もう怒り狂ってるわ。普段穏やかでこんなに怒り狂った姿は見たことがない。

聖威の言葉ではないが、本当に父上大好きの父上命のようだ。

……あぁ、私。こんな人と婚約してたの?

なんか、ガッカリだ。

そして、隣にはちゃっかり、あの芙蓉様もいる。まるで婚約者気取りね?朝霧様の怒り狂った罵倒に同意するように、うんうんと頷いている。