「す、すいません、あなたは……」



突然話しかけられた羅沙姫は、頭を気持ち低くしたまま、首を傾げている。

善見城への登城が初めてだったのか、韋駄天様の顔を知らないようだ。

だが『ニセモノのヤツ』は、図々しくその名を騙る。



「私の名は、韋駄天。天部衆に籍を置く、善見城騎士団の武官だよ」

「はっ!て、天部衆の武官さん!」

「ああ。大活躍した姫剣士に話を聞きたくてね?」

「は、話……ですか?」



そう言われた姫は、訝しげな視線を送っている。

そんなお偉いさんに何故話しかけられるのかと、不審に思っているのだろう。

元々人見知りが激しいのか、警戒心たっぷりだ。

……しかし、それだけではない。

姫は本能で気付いていたんだと思う。

この人物は怪しい。警戒すべき者だ、と。



問い返されたニセモノ韋駄天様は、ニヤリと笑う。

いつもの顔貌が崩れるほど。



(……っ!)



その笑みを目にした途端、全身に寒気が通り過ぎて、体を震わせてしまった。

ただ単に、その笑みが不気味だったからではない。無意識に体が反応したような感じだった。