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 月曜日の朝。

 オフィスのエントランスがざわめきだした。

「おい、誰だよあれ。うちの制服着てるんだから社員だよな?」

「すっげー美人!!スタイルいい」

「出向とかかな?どこの部署だ?」

 そう言われた美女は、颯爽とその場を後にして、エレベーター前でエレベーターを待つ相原部長の元へと急いだ。

「部長!!おはようございます」

 ぺこりと頭を下げる美女に蒼士は一瞬たじろいだ。目の前で頭をさげる人物が誰なのかわからない。

 美女が頭を上げると、にこりと微笑みそれから、蒼士を見つめた。挨拶をしても何の返事も無い蒼士の反応に、心配した美女が少し眉を寄せながら口を開いた。

「あのーー、土屋です。土屋沙菜です」

「………………へ?」

 長い間の後、間抜けな蒼士の声に、沙菜は笑みを見せる。

「お休みありがとうございました。五日間で自分磨き、頑張ってみたんですが……どうですか?」

 上目遣いで見つめてくる沙菜の姿に、蒼士はもう一度たじろぐと、一歩後ろへと下がった。

「うぐっ……」

 蒼士は右手の甲で、ワナワナと震える口元を、隠すように押さえた。





 そう、沙菜はこの五日間で大変身を遂げていた。

 有休一日目の水曜日、早速美容院への予約を入れる。有名店は予約が取れないと思ったのだが、ラッキーなことに予約のキャンセルがあり予約が成功する。予約が取れたのは休みの最終日の日曜日だ。

 美容院の予約ができた沙菜は、コンタクトレンズの購入に急ぐ。目の診察も済ませ、コンタクトを購入すると、その場で久しぶりのコンタクトを付けた。眼鏡と違い、視界が開けたような気がした。

 喫茶店で軽くお昼を済ませると、その足で化粧品を購入するため化粧品売り場へ、沙菜の肌に合うファンデーションやチーク、口紅、アイシャドウを店員の進めるままに購入し、化粧の仕方のレクチャーを受ける。かなりの額を購入したため日曜日まで毎日化粧のレクチャーを受けられるよう店員と話をつけた沙菜は上機嫌だった。

 その帰り道……エステの文字が目に飛び込んでくる。

 エステか……いままで生きてきてエステに行ったことがなかったけど、この際徹底的にやってやろうと、エステと書かれたビルの自動ドアをくぐりぬけていた。

 幸いなことに、樹は最低な男だったが、沙菜からお金をせびるような真似はしなかった。そのため今まで貯めたお金がかなりの額あった。このお金、今使わずしていつ使う。

 沙菜はエステ店の受付で五日間のスペシャルコースをお願いした。






 月曜日の朝、姿見の前で全身のチェックをする沙菜。
 
 自分で言うのもなんだけど。いい感じに変われたと思う。

 思ったより制服のタイトスカートが似合っている。今までは体系を気にしてスラックスを穿いていた。

 今が変え時だ。

 最近残業続きで、食事がエネルギー系ゼリー飲料だけという日が続いたためか、幸か不幸か体系に変化が出ていた。いつの間にかポッコリお腹は綺麗にくびれ、頬や顎は綺麗なラインを見せていた。胸は元々大きめだったが、それはそのままだ。


 昨日エステのスペシャルコースを終え予約した美容院へ向かい、ただ伸ばしていただけの髪にはさみを入れてもらい、トリートメントでつやっつやにしてもらった。外に出ると沙菜のロングの髪が、サラサラと艶めきながら風にゆれた。

 
 髪もサラサラばっちりね!!

 さあ行くわよ。

 何処へって?

 もちろん会社ですっよ。 


 

 
 樹……見ていなさい。

 一泡吹かせてやるんだから!!