月末の経理部は戦場のようなありさまとなり、あちらこちらから電卓の音が鳴り響く。この音が眠っている間も頭の中に鳴り響いてくるのは、経理あるあるではないだろうか?

 

「彼氏と二週間あってないよー。充電切れたー。無理ー」

 隣の席から困り果てたように声を上げるのは、入社二年目の茂木夏(もてぎなつ)だ。彼女は溌溂とした、人を引き付けるタイプで、幼さの残るふっくらとした頬にショートの髪がとても似合う女性社員だ。いつもニコニコと明るい夏は社内のムードメーカーで上司達からの評判もとても良い。

「土屋さん助けてください!!」

 甘え上手な彼女は、私にいつも縋り付いてくる。

「……仕方ないわね。それやっておくから帰りなさい」

「ホントですか!!ありがとうございます」

 私は知っている。こんな風に可愛く縋り付いてくるこの子が裏で私をバカにしていることを……。

 給湯室での会話を聞いてしまったから……。

「あんたいつも土屋さんに仕事押し付けて帰ってるでしょう」

「仕事なんて暇な人がやればいいのよ。土屋さんいつも暇そうだし彼氏なんていないでしょ?」

「だからってさー」

「いいの、いいの、だってすぐに代わってくれるし、仕事がすきなんだよ。土屋さんはさ……」

「あんたってば悪い奴」

 あはは。と笑い声が給湯室から漏れ聞こえてくる。


「仕事が好き……か」

 毎日毎日仕事に追われる日々。

 仕事は好きだ。やりがいも感じているし、やればやるほど自分の成長へとつながる。キャリアとして上を目指すのもいいと思う。

 しかし、それを女がしてどうする?とも思う。

 女の幸せとは何なのか?

 結婚か?

 家庭を持つことか? 

 子供を産み育てることか?

 結局のところ相手がいないと成立しないものばかり……。


 私の未来の先には何が待っているのか……わからない。