夏を知らせる音は、匂いは、どこからやってくるのだろうか。

蝉の声、プールの塩素の匂い、花火があがる音、祭りの屋台の匂い。
それを見つけたころにはもうとっくに夏は来ていて、むしろもう終わりに向かっているのだと思う。



「志茂センパーイ」

「なんだよ」

「今日もまだ帰らないんっすかー?」

「うるせえな、集中してんだ」

「ち、ツレナイ男っすね」

「お前は少しは女の子らしく座れねえのか」

「ウチに女の子らしさを求めないでくださーい」

「ハイハイ、悪かったな」

「センパイが相手してくれないので帰りまーす」

「おう、じゃーな」

「引き留めてよ、センパイのバカ―!」



揺るぐことなくひらひらと手を振ってやれば、むすっとした顔がこちらを睨んでいるのが視界の端っこに映る。
短いスカートを揺らして、一冊のスケッチブックを自分のロッカーに片付けた後輩は、ご丁寧にあかんべをして教室を出て行った。




独特な匂いで包まれた教室にただ一人、イーゼルに立てかけた真っ白だったキャンバスにひたすら青色を塗りたくっている、俺。


だらしなくシャツが出てしまうのはしまうのがめんどくさいからで、何となく染めた金色の髪の毛は黒寄り似合うから続けているだけだ。
ネクタイなんて堅苦しいものは始業式や終業式以外は絶対につけないし、腰パンになっててもそれすら直すのがめんどくせえ。



気づけば「不良」のレッテルを貼られている俺が3年になって、部員がたったの二人しかいない美術部の部長になっている。