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『春田先輩のことが好きなんですか?』


告白を断ったとき、挑発的な瞳で俺を見て桃井さんは言った。

俺だってバカじゃないから、うなずいたりしなかった。


うなずいたら、大なり小なり春田さんに害が及ぶことくらい、たやすく想像できる。


十何年王子ってやつをやってみて、そのときそのとき、悲しむ人ができるだけ少なくなる行動を選べるようになったつもりだった。

でも。


『こないだ、水樹先輩が自分から女の子に話しかけたのが、春田さんだったって。みんな、噂してます』


そうだよな、俺、あのとき油断したよな。


昼休み、春田さんが好きな五十嵐先輩が、春田さんのクラスの前にいて。


そんなことしたらだめだって、春田さんに迷惑かかるって、わかってたのに動く体をとめられなかった。


『春田先輩のことが、好きなんですか?』


桃井さんがもう一度聞く言葉に、俺は首を縦にも横にも振らなかった。



肯定できなくてもせめて、気持ちにうそはつきたくない。

いつぶりのわがままだろう、そう思った。