「少し落ち着きましたか?」

茶色く澄んだ瞳が真っすぐあたしに向けられる。

「……どうもありがとう」

「いえ。気にしないでください」

部室で着替えを済ませたあたしに神宮寺エマと名乗る生徒は美しい笑みを浮かべた。

あたしが体育館倉庫に閉じ込められていることに気づいた彼女はすぐに職員室へ行き倉庫の鍵を使って助け出してくれた。

中から現れたボロボロな姿のあたしを見ても彼女は顔色一つ変えなかった。

彼女の表情からはあたしに対する嫌悪感はうかがえず、むしろ哀れんでくれているように優しい。

吐しゃ物まみれのあたしに臆することなく彼女は体を支えて部室に連れて行ってくれた。

『これ、使ってください』

そう言って手渡された一流メーカーのタオル。

『汚れちゃうから』

『そんなこと気にしないで使ってください』

彼女はそう言って譲らなかった。

顔についた涙や汚れや鼻血や吐しゃ物も彼女が優しく拭き取ってくれた。

初対面の彼女の無慈悲な優しさが今のあたしには泣きたくなるほどに嬉しかった。