【早乙女瑠偉side】

築40年近い古びた平屋建ての家にあたしとおばあちゃんは二人で暮らしていた。

「瑠偉ちゃん、お誕生日おめでとう」

朝ご飯を食べ学校へ行こうとするとおばあちゃんは思い出したかのように言った。

「うん。ありがと、おばあちゃん」

「もう15歳だねぇ。早いねぇ。今日も部活で遅いのかい?」

18歳だけどね、おばあちゃん。喉まででかかったセリフをぐっと飲みこむ。

最近、おばあちゃんの認知症は日に日に悪化している。

「うん。今日は友達がお祝いしてくれるの。帰り遅くなるから」

「そうかい。気を付けてね」

「じゃあね」

玄関をでてもおばあちゃんはニコニコと笑いながら手を振っていた。

これがあたしの毎日のルーティンだ。

「ハァ……朝からだるいなぁ」

これも全部先生のせい。

あの日、学校中の先生たちが浮足立っているように見えた。

少しすると先生と高校生らしき少女たちとの情事の写真や動画が学校に送り付けられてきたことで学校中が大騒ぎになっているという話が生徒たちの間にも漏れた。

授業は急きょすべて中止となり、緊急の職員会議が開かれバタバタと先生たちが慌ただしく教室と職員室を行き来していた。

折原がそこまで節操のない男だとは思ってもみなかった。

けれど、兆候はあった。アイツは何かにつけて写真や動画を撮りたがった。

でもあたしは一度も撮らせていない。

折原は「愛の証だ」なんてもっともらしいことを言っていたけれど、そんなの綺麗ごとだ。

いつリベンジポルノとして世間に晒されてもおかしくない。

結果的に撮らせないで正解だったのだ。

「次は誰にしようかな」

スマホの連絡帳にはびっしりと男の名前が連なっていた。

その中で今一番お気に入りの隣のクラスの男子にメッセージを送る。

【照くん:おはよ。今日がなんの日か覚えてる??】

【おはよ。瑠偉の誕生日でしょ。忘れるはずないじゃん】

1分も待たずに返信がきた。

芦田照(あしだてる)は同じクラスの仲の良い唯(ゆい)の中学から続く彼氏だ。

唯にはもったいないぐらいのイケメンで学校での人気も高い。

照くんがあたしに熱い視線を送っていることには以前から気付いていた。

だから、ちょっとちょっかいを出したらすぐになびいてきた。

まだ関係は持っていないけど、手を繋いでキスもしたしそろそろ次の段階に進もうかと思っている。

男を手玉に取るのは楽しい。とくに、相手のいる男ならなおさらのこと。

【今日の放課後お祝いしような】

照くんからのメッセージに微笑む。

「ちょろい男」

あたしはポケットにスマホを押し込むと、歩を速めた。