◆◆    6


 テラスには今日も心地よい風が吹いていた。

「──で、今日はクレッグ様も魔獣舎にお越しいただいて、大喜びでした。ずっとブラッシングしているものだから、みんな毛並みがふわふわです。セシリア様の会社で作っていただいたシャンプーも効果抜群で」

 ミレイナの話に、ジェラールは時折相づちを打って聞き入る。
 クレッグとはセシリアの三歳になる息子だ。銀に近い金髪に青い瞳をした可愛らしい男の子で、大のもふもふ好きなのだ。機会があるとたびたび魔獣舎に遊びにきては、魔獣達と戯れている。

 しばらく夢中で話していたミレイナは、そこでハッとする。

「申し訳ありません。私ばっかり喋ってしまって」
「なぜ謝る? ミレイナの話は、いくらだって聞いていられる。特に、そのように嬉しそうな顔をしているときはなおさらだ」

 ジェラールは優しく微笑む。
 そんな風に甘く微笑まれると、どぎまぎして何を話せばよくわからなくなる。

 ミレイナは口を噤むと、気恥ずかしさを隠すようにティーカップを持ち上げる。

(美味しい)

 今日ミレイナが淹れた紅茶は、綺麗な琥珀色に色づいていた。

「アリスタ国への文官の派遣日程が決まった」

 ジェラールが沈黙を破るように口を開く。

「文官? あ、本当ですか? 獣医学を学ぶんですよね?」

 文官と聞いて、以前ジェラールから『獣医学を学ばせるためにアリスタ国に文官を派遣しようと思う』と聞いたことを思い出す。

「ああ。来月から、半年間の予定だ」