「お前なぁ、あんなとこで、なにタメきいてんだよ」
 その夜。
 美波の前にどっかり座っているのは……北斗であった。
 でも昼間のスタジオの様子とは、正反対。
 クールなポーズもない。
 どっかりあぐらをかいているし、眉間にはしわが寄っている。
 おまけにほおづえまでついていた。
 非常にお行儀が悪い。
 さらに、服もクールとはほど遠い。ゆるっとした、ただのグレーのスウェット姿。
 こんな姿を見れば、見学に来ていた女の子たちは、がっかりするか、あきれるかするかだろう。
 美波は昼間とのギャップに混乱しながら、それでも「ごめんなさい……」と言った。
「だいたい、なんでお前が見に来てんだ。招待した覚えはないぞ」
 それは確かにその通り。
 そしてそれを事前に言わなかったのも美波なので、美波はもう一度、謝るしかない。
 でも一応、理由はあるのだ。
「ち、違うよ、あずみが見に行きたいって言って、申し込んだら当たっちゃったんだもん」
 そう、今日の見学会に申し込んだのは、美波ではなくてあずみ。
 北斗の大ファンのあずみは、【スターライト ティーンズ】についていた申し込み用紙を三枚も送っていて、その一通が見事当たったのだ。
 『今角 北斗 モデル撮影・見学会』のペアチケットが。
 それをあずみが誘ってくれたのだ。「ペアだし、一人だったら感動で倒れちゃうかもしれないから、一緒に来て!」と。
「だからってホイホイ一緒に来ることないだろ」
 なのに北斗は良く思わなかったらしい。ほおづえのまま、はぁっとため息をついた。
 美波はちょっと、むっとした。
 一応、正当な手段で行ったというのに、文句ばかり言われては。
「そんなふうに言わなくても……」
 美波はなんとか言い返そうとしたのに、北斗は何故か、ちょっと気まずそうに、でもやはり機嫌悪そうに言った。
「お前がいると、なんか調子狂いそうになるんだよ」
 その割には、一発オッケー出てたし、すごく綺麗なポーズだったけど……。
 美波は心の中で、首をかしげた。
 でも、自分がいると調子が狂う、というなら、やっぱり悪かったのかもしれない、と美波は思った。
「い、行かないほうが……良かった?」
 おそるおそる、聞いたのだけど、北斗は今度、はっきり顔をしかめた。
「そうは言ってないだろ」
 美波は実際に首をかしげてしまった。
 来たことに文句を言ったというのに、それは違うという。
 北斗の言っていることの意味が、よくわからない。
 なのに、北斗はもう一度、ため息をついて、立ち上がってしまう。美波はその様子を見上げた。
「風呂、入ってくる」
 風呂、という言葉にどきっとしながらも、美波はうなずいた。
「う、うん……どうぞ」
 それだけで、北斗は出て行ってしまった。美波の部屋から。
 美波の部屋に、スウェット姿なんて格好でいて。
 おまけにお風呂に入ってくる、なんて言って。
 まるで住んでいるようだが、実際、住んでいるのである。
 なにがどうなったか、北斗は一ヵ月ほど前から、事情で美波の家に暮らすことになってしまったのだから。