ルルのお腹にナイフが突き立てられた。ドレスがざっくりと切れる感触に血の気が引いたが、刃は体をつらぬくことなく硬い音を立てて止まる。

 てっきり一刺しにできると思っていたメイドは動揺した。

「ドレスの下に防護服が!?」

 その隙をついてノアがメイドを蹴り飛ばし、ヴォーヴナルグがルルの前に立って庇う。
 手を離れたナイフはクルクルと宙を舞って、お茶請けのケーキに突き刺さった。

「貴様、何者だ。誰の指示でルルーティカ様を殺そうとした」

 ノアが威圧的に問いかけると、壁に叩きつけられたメイドは、「きかれて正直に答えるかよ!」とずれたメイドキャップを床にたたきつけた。
 くせの強い赤い髪は短くて、まるで下町の少年のようだ。

「そっちこそ、命を狙われる当てはいくらでもあるんだろうが。そのために防護服なんか仕込んでたんだろ!」
「実はこれ、防護服ではないの……」