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それが思っていた以上に呆気なくスルリと抜けたのはいいものの、勢いをつけていた私の体はふわりと宙を舞う。


バランスを崩した私は、見事に頭からドンッと地面に叩きつけられた。


電流が走ったような痺れとこれまでの過去の映像混じり合いながら流れ込み、私は反射的に大きな声で叫んだ。


「だあああっ!思い出したーー!!」


ぱっと目を開ければそこに広がるのはクリスタルで出来た洞窟、クリアノアゼーツ洞窟の眩いクリスタル達が私を見て笑っているように輝いた。


私の声を聞いて駆け寄ってきた足音の存在達のことに気がついて、ぶつけた後頭部を擦りながらゆっくりと起き上がる。



「アイリーン?!大丈夫?!」


「聖剣を抜いたと思えば、勢い良く後ろに反り返るもんだからコケるとは思っていたが……盛大にやったな」



私の隣にやって来た尖った耳が特徴的な美しい少女、エルフのスコーリアと、獣人と呼ばれる人狼一族の若長でもあるジュゼンが心配そうな目を向けていた。


アイリーン・ルーディアス、それが“今”の私の名前。


国王直属の親衛隊隊長の父バハーゼルと、神殿に遣える聖女の母レチェナの間に生まれ、幼い頃から武術を叩き込まれながら育ち、十九年という年月を生きてきた。


昔からよく分からない単語を口にすることがあったと、周りの大人達からも言われていて自分の中にも何かの違和感はあった。


だけどそれが何なのかの検討がつかないまま、十二の時に賢者の導きによって私は勇者に任命され近いうちに復活すると恐れられた魔王との戦いに備えるべく力を付けた。


力を付けていく上で良き仲間と巡り会い、共に魔王討伐を目指す事となりパーティを組んだのは二年前。


徐々に増え始めた魔物の討伐をしながら平和を保っていたが、遂に魔王城が出現し魔王が復活した。


そして今、魔王を討伐するために必要不可欠になる聖剣をこの神聖な地、シェンバルヒ聖堂の地下に眠るクリアノアゼーツ洞窟へと訪れた。


私の手に握られた光り輝く剣は、魔王の闇を唯一切り裂くことの出来る力が込められた剣。


歴代の勇者達もこの聖剣を使って魔王と戦い、悲劇を生み出すことなく平和を勝ち取ったと言われている。


貴重な聖剣を抜くという緊張感しか感じられない中、気持ちを固めてクリスタルに守られる聖剣を力強く抜いた、そして勢い余ってすってんころりん。