「ライラ、しばらく占いはストップだ」

翌日、ドリーにそう言われてホッとしていた。今の精神状態では、とても正しい判断ができるとは思えない。ドリーにも、心配かけてしまっているに違いない。

「ごめんなさい、ドリー」

「いいってことさ。ここに来て以来、まともな休みもなく働いてたんだ。今日はこの通り、外は大雨だ。宿も食堂も客は来ないだろうから、店は閉めるとするさ。どこへも行けそうにないが、一日ゆっくり過ごせばいい」

「ありがとう」

この辺りには、気晴らしになるようなお店なんてなにもない。気を紛らせるような本も持ってない。いざ時間が空いても、うまく過ごせそうにないことに気が付いたのは、自室に下がってからだった。

マリアーナもアルフレッドもいない。ルーカスは、ジャレット共に忙しそうにしてしているし。
怖くて占いにも向き合えない今の私は、誰の役にも立ててない。あまりにも無力だ。

「はあ……」

2年弱かけて、やっと自分の居場所も存在意義も見つけられたというのに、それが一気に足元から揺らいでくるようだ。



「……アドルフはなんて?」

廊下を歩きながら、ルーカスとジャレットが話しているようで、声が漏れ聞こえてくる。どうやらアルフレッドの元へ飛ばしたアドルフが、帰ってきたようだ。

「……で……が……」

遠ざかる彼らの声は、ほとんど聞き取れなくなっていく。ううん。聞き耳を立てるなんて、失礼なことはしちゃだめだ。

「ココアでもいれてこよう」

気持ちを落ち着かせるには、甘いものが一番。グノーはいるのかしら?と思いながら、食堂へ向かった。


「ジャレット、俺が……」

「いいえ、ルーカス様。この雨では、あなたは動けません。ここに留まって、知らせをお待ちください」

「……くそっ」

食堂へ向かう道すがら、気まずい場面に出くわしてしまった。