「ライラ、どういうことだ!?」

「なにが?あっ、いらっしゃいませ」

「なぜここで働き続けている?」

ギャンギャンと犬のように吠えるのは、オオカミの獣人、ルーカス・サンミリガン。
お昼時の忙しい時間帯だというのに、店内の一席を占領して、さっきから……ううん、数日前からずっと同じことを喚いている。 

「なぜって、これが私の仕事だからよ。あっ、ドリー注文よ。グノーに伝えて」

「はいよ」

ここのところなぜか客が増えて、店内はこれまでになく賑わっている。

「だ、だが、ライラは俺と番うって……」

あらあら。ギャンギャンからキャインキャインになってるわ。少しだけ申し訳ないけれど……

「そこまでは言ってないわよ?」

「なっ……」

ちょっと言い過ぎちゃったかしら?でも、ここで甘い顔をしたら、ルーカスはきっと暴走するはず。

「この仕事は、私に任された大切な仕事なの。自分の都合だけで今すぐ辞めてしまったら、ドリー達に迷惑がかかるわ」

「そ、それはそうだが……」


本当は、今すぐにでもルーカスの胸に飛び込みたい。けれど、やっぱり無責任なことはできない。なにも持たない私を受け入れてくれたドリーに、恩を仇で返すような去り方はしたくない。だから、いろいろと目処をつけられるようにしているところだ。

「なあに。あと数日したら、ライラを連れて行ってもいいぞ」

「え?」
「本当か?」

「もう数日もすれば、ローラがもどってくる」

ドリーの義娘であるローラは、〝後始末を……〟なんて言いながら、再びドリーの元を去っていった。おそらくシュトラスに向かったと思うけれど、本当のところはよくわからない。

「マリアーナとアルフレッドのことは、目処が立ったしな」

ユリウスを引きずってシュトラスに向かったアルフレッドは、巧みな話術でカレルヴォを丸め込み、数日もしないうちにマリアーナを連れてグリージアにもどってきた。ついでに、マリアーナの護衛として、ヨエルも引き連れて。そろそろ正式に、2人の婚約が発表されるはずだ。