転勤先での仕事が始まるのは四月一日から。


引っ越しをする前に少しは有給を使って休むのかと思っていたけれど、郁也は引き継ぎがあるからとギリギリまで働いて、引っ越し作業はほとんど私ひとりで済ませた。


車があるから飛行機ではなくフェリーで移動して、転勤先である北海道札幌市へ越してきたのは三月の末。


「さむっ!」


名古屋港から苫小牧港への長旅を終えて、車で一時間半かけて札幌へ向かい、五階建てのレンガ調のマンションの前に車を停めて外へ出た私たちを包んだのは、キンと冷え切った空気だった。


苫小牧港でフェリーから降りた時も寒くて、まあ海沿いで風が強いしね、とのん気に考えていたものの、そうじゃなかったらしい。


名古屋では満開だった桜も見当たらない。それどころかまだ道端や草むらには雪が残っていて、有給消化中に張り切って買った春服を着ていた私は肩をすくめた。


「え、もうすぐ四月だよね? 四月って冬だったっけ?」と疑問に思うほど北国の春は冬の気配が残っていて、私に負けず劣らず薄着だった郁也も小さく身震いをした。


「寒いだろうなとは思ってたけど、予想以上だったな」


「でも天気よくて気持ちいいね。それになんか、空が綺麗な気がする」