戸惑いながらも頷くと、彼は淵に腰かけ、雨で霞む街を見下ろしながら話し出した。




「あいつらに会ったら、絶対に目を合わせちゃいけないよ」

「目が合ったら、どうなるの?」

「どこまでも追って来る。僕らを取り込もうとして」

「でも……どうやって()ければ……」




 話を聞いて捕まってはいけないのはわかった。けどだからと言ってどうやって助かればいいのか、会わないようにすればいいのかわからない。




「あいつらが来る直前はいつも嫌な感じがするんだ。そして次に、必ず話しかけて来る」




 まるで話しかけられたら逃げろ、と言われている気がして戸惑ってしまう。だって最初に話しかけてくれたのは彼だ。

 もし彼があいつらの仲間なら……?

 考えたくもないことが浮かんで急に不安が押し寄せる。そんなわたしの気持ちを察したのか、彼は「頭に、ね」と付け足した。




「頭に?」

「そう。頭」




 人差し指を立てて頭の横で円を描く彼の顔には、笑顔が浮かんでいる。




「僕達はちゃんと口で話せるでしょ」

「あ……そっか」




 だから大丈夫、そう言わんばかりに今度は親指を立てる彼を見てわたしもつられて笑った。




「そうだ、まだ名前言ってなかったよね」




 彼はわたしにそう言いながら隣に座るよう促す。




「僕は柴樹。よろしくね」

「うん、よろしく」




 差し出された手を握り返すと彼が「君は?」と今度はわたしの名を聞いた。

 産まれおちた時、誰にでも与えられるはずの〝名〟。