ケータイ小説 野いちご

ひと雫ふた葉  ーprimroseー

3ly.佇む狂い花
1es.霧雨に惑いし影





 もう、どれだけの時が経ったのかわからない。気がついたら独りで、皆わたしを見なくなった。

 薄暗い空は小さな雨粒をちらつかせ、わたしの顔を濡らす。

 わたしはなんのためにここにいるんだろう。何がしたいんだろう。どこへ行けばいいんだろう。

 目を閉じて考えてみても、大事な部分が欠けているのか、わたしがここにいる理由を見つけられない。

 思考を諦め、抱えた膝に額を押しつけた。




「君も、独りなの?」




 耳に滑り込む澄んだ声。わたしに話しかける人なんているはずないのに、反射的に顔を上げてしまう。
 けれどそこには確かにわたしの目を見据え、手を差し出す独りの少年の姿があった。
 わたしと同い年くらいなはずなのに、幼さの残るその子は穏やかな表情を浮かべ、淡い栗色のくせっ毛を揺らして手を取らないの、と言いたげに小首を傾げる。




「わたしが……見えるの?」




 思わずそう問うと、彼は茶色にも黒にも、灰色にも見える不思議な色をしたその目を細め、小さく頷いた。

 どれほどこの時を待ちわびただろう。やっと、やっとまともに話せる人が現れた。




「わたし、わたし……!」




 伝えたいこと、聞きたいこと、話したいことは山ほどあるのに、上手く言葉は出て来ないし、頭も回らない。それでも差し出された温度の無い彼の手を強く握り絞め、言葉を探す。
 しどろもどろになるわたしを優しい笑みで見つめていた彼だが、突然その顔を強張らせた。

 ……どうしたんだろう。

 辺りを警戒しているように見えた彼に習い、わたしも耳を澄まし、辺りを見渡す。
 すると視界の端を何か黒いものが横切ったような気がして振り向いた。しかしそこには無造作に積まれたゴミの山が広がるだけ。

 虫か、何かかな。

 そう思ったものの、彼はいまだ険しい顔のままで呟いた。




「……また、来る」

「来るって、何が────」





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