「紫樹、もう体大丈夫なの?」

「平気」




 まばらに雨がちらつく午後。

 先日の騒動により1日学校を休むことになった俺達は再び自室に集まっていた。

 昨日の話を聞けば、あの霊魂……雨香麗は酷く暴れ、俺を取り込もうとしていたらしい。なんとか徳兄が退(しりぞ)けてくれたらしいものの、俺は耳から血が出るわ、鼻血も出るわで昨日は寝たきりだった。

 徳兄もガラス片であちこち切ったりして、いまだに顔も手も絆創膏だらけだ。

 瑮花と雨香麗のお兄さんの麗司さんは窓の近くにはいなかったし、すぐに異変に気づいて避難してくれたから怪我はなかったらしい。
 全員この程度だったからよかったものの、あの中にいて俺達がこれくらいの傷で済んだのはきっと、朱紗の加護もあってのことだと思う。




「昨日の今日だけど」

「もうオレらだけの問題ちゃうで、ここまでくると」

「うん、そうだね」




 そう、もう決めた。決意したんだ。

 今回の件で、確実に報道されてる事件の根源が雨香麗であることがわかってしまった。あの晩の予言も当たってしまっている。

 もうきっと、俺達だけで動いていいことではないんだ。




「俺から家族に話してみる」

「ああ。でも、オレもそばにつく」

「あたしも」

「……うん。ありがとう、2人とも」




 正直のところ母さんはどうにかなっても父さんや爺は説得できるかわからない。そんな不安も2人がついてきてくれると言ってくれるだけで、いくらか拭い取れたような気がした。




「今日は雅久(がく)さんらも出張あらへんよな」

「……たぶん、皆境内(けいだい)にいる」




 そうと決まれば、と言うように徳兄は立ち上がる。俺もそれに習って腰を上げるけれど、廊下に出たところで何か閃いたように瑮花が立ち止まった。




「あ、そうだ。あたし達が柴樹のママ達呼んで来るよ」

「ああ、せやな。お前は居間で待っとき」




 断る理由もなかった俺は二つ返事で受け入れ、2人と別れて居間へと入った。

 静かな居間にリズム良く窓を打つ雨の音が聞こえ、それに耳を傾けながら目を閉じる。

 ……まだ、雨香麗を救える方法はあるだろうか。もう殺してしまうしかないとしたら……──。