瑮花と宗徳、2人が聖皇峯へと赴いた次の日────。

 与雅澄神社の前には一台の車が止まっていた。不規則に窓へ当たっては砕ける雨粒を眺める宗徳(そうとく)の耳に瑮花の声が滑り込む。




「宗徳ー!」




 雨から身を守るようにして鞄を頭上に掲げた瑮花は、小走りで車に駆け寄ると大急ぎで飛び乗った。




「ごめん、遅くなった」

「また親に捕まりでもしたんか」




 瑮花がシートベルトを着用したのを確認し、車を発進させながら冗談染みた調子で宗徳は言う。




「まぁそんなとこ」




 そう答える瑮花の表情には陰りなどなく、なにか吹っ切れたようにも見えた。宗徳もそれを感じたのか、瑮花を横目に口の端を上げる。




「それにしても、あんたが車運転するなんて意外」

「あ? なんや、運転できひんように見えるってことか?」

「さぁ?」




 悪戯っぽく言った瑮花に宗徳も満更でもなさそうな顔をする。




「今日は雅久(がく)さんに車借りれたんや。昨日みたいに誰かさんがびっちゃびちゃに濡れたら、困るんオレやしな」

「なによ、柴樹のパパの車なのに自慢げに話しちゃってさ!」




 さっきの仕返し、そう目で訴える宗徳に顔を真っ赤にしながら抗議する瑮花。車内は目的地につくまで終始、賑わいを見せていた。