ケータイ小説 野いちご

ひと雫ふた葉  ーprimroseー

2ly.誘われる花弁
2es.交わらぬ雫糸





「ね、柴樹(しき)はどれがいい?」

「うーん……瑮花(りっか)がおすすめしてたやつ、頼んでみようかな」




 普段は行かない、甘い香りが漂う大通り。空には分厚い雲が立ち込めているというのに、相も変わらずそこは賑わいを見せていた。

 なんとなく、瑮花(りっか)の誘いにのって流行りのスイーツを食べに来た俺は、品物が来るのを待ちわびていた。




「はい、柴樹(しき)の」

「ありがとう。……なに、この黒いの」




 ミルクティーの底にゴロゴロと転がる小さな黒い粒。こんなのが入ってる飲み物なんて飲んだことないし、あまり美味しそうには見えなかった。




「それが話してたタピオカだよ。もっちもちで美味しいんだから」

「へぇ……」




────よくわからないけど飲んでみよう。

 いつもより太めのストローでタピオカを吸い上げる。そして口の中に転がり込んできたそいつを噛み絞めた。

 それは本当にもっちりとしており、ほのかな甘さもあって美味しい。ミルクティーとも合うのが驚きだった。




「ね? 美味しいでしょ?」




 俺が感動してるそばで瑮花(りっか)が嬉しそうに笑う。




「タピオカって名前から勝手にアボカドみたいなやつだと思ってたけど、全然美味しいね」




 そう言って俺も笑い返せば瑮花(りっか)は「なにそれ」と吹き出した。

 そんな穏やかなひと時を邪魔するように、耳障りな声と嫌な気配が近づく。




『もどッテ、おィでエエェエ』




────あいつらだ。




柴樹(しき)? どうしたの?」

「……なんでもない」




 大丈夫、大丈夫……。

 あいつらは目を合わせなければ追って来ない。無視すればいいだけの話だ。さっさとここから離れよう。




「ねぇ、瑮花(りっか)。俺、疲れちゃって。中入って休もうよ」

「あ、ごめん、大丈夫?」

「うん。大丈夫────」




 申し訳なさそうに眉を下げる瑮花(りっか)に笑みを返しながら口を開いた直後。





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