「起きんか、阿呆」




 怒気を含んだ低く、静かな声。俺はすぐそれが(じい)のものであることに気がつき、重たい瞼を押し上げた。

────戻った、のか……。

 思考が定まらない中、目だけを動かしてその姿を探すと案の定、眉間に濃い皺を寄せ、腕組みをしながらあぐらをかいている(じい)が俺を見下ろしていた。

 (じい)は俺と目が合うや否や、汚物でも見るような視線を投げかけながら話し出す。




「……お前はまた、浮遊霊などと戯れておったそうだが」




 だいたいどんな言葉が飛び出てくるかなんてわかってたのに、俺は〝浮遊霊〟という一言が許せず、飛び起きて(じい)に掴みかかった。




「ち、が……! あの……子はっ……」




〝あの子は浮遊霊なんかじゃない〟。

 そう主張したかったのにも関わらず、負担をかけすぎた体はもう、まともに言うことを聞いてくれなかった。
 激しく出る咳が言葉を押し込み、話すことすらままならなくなった俺を見て、(じい)は呆れたように言う。




「ほら見ろ。あれだけやめておけと言ったのに、言いつけを守らずほいほいと体を抜け出すからそうなる」




 それにも言い返せず、苦しくなる胸をおさえながら睨むのが精いっぱいな俺を横目に、(じい)は「お前の外出を禁ずる」と吐き捨てて部屋を出て行った。

────(じい)の言いつけなんか、守ってる場合じゃない。

 鉛のように重い体を引きずり起こし、殴られているような頭痛に耐えながら気力だけで立ち上がる。