ケータイ小説 野いちご

ひと雫ふた葉  ーprimroseー

3ly.佇む狂い花
2es.氷雨に揺れる蛍





「今日はどこ行くの?」




 雨香麗と出会ってもうすぐ1週間。別れは刻一刻と迫っているのに、俺はまだ何もしてやれないでいた。

 どんよりと重たい雲を湛える空とは対照的に、雨香麗は無邪気な笑顔を向ける。




「今日はとっておきの場所に案内するよ」




 そう答えれば雨香麗の顔には花が咲く。可憐で儚く、美しい花だ。今にも消えてしまうそうなその笑顔を守りたい。
 そう思うのに、俺にできることは独りきりの雨香麗に、偽りを(もっ)て寄り添うことくらいだった。

 そんな俺を、彼女はいつも笑顔で迎えてくれる。




「とっておき? どんなところ?」




 無垢な瞳で俺の顔を覗き見て雨香麗が言う。俺はそれに「内緒」とだけ返して先を歩き出した。

 本当なら雨香麗の記憶を取り戻したい。全て思い出してほしい。そしてまた笑い合えたら……。

 けど、今の俺にはそんな力なんてなかった。記憶の欠片を探す手伝いもできない。案内できるのは俺の知る安全な場所だけ。
 廃工場や寂びれた森林、廃ビル……人のいない、あいつらのいない場所しか見せてやれない。都会に出れば瞬く間に目をつけられ、追われるのがわかりきっている。
 だからそういった場所を選んでは、雨香麗を世界から隠すように移動してきたんだ。

 でももう時間がない。そろそろ離れなければ、そんな予感が強くなっていた。

 だから今日、雨香麗に少しでも綺麗な景色を見せたかった俺は、先日見つけた場所に雨香麗を案内することにした。

 古びた軒が並ぶ住宅街の外れ。そこには栄える都会に似つかわしくない、深い森が広がっている。入口にあるのは細い獣道と乱雑に伸びる草木。




「ね、ねぇ。大丈夫なの? ここ、なんか怖いよ……」

「平気。大丈夫だよ」




 今日の天気も相まって、薄暗く陰湿な雰囲気をかもし出す森を見て雨香麗が怖気づく。俺はそんな雨香麗をの手を取り、距離を近づけた。





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