22歳の誕生日、前日。




「紫樹。お前は何度言わせるんだ」




 ここ数年、父さんは同じことばかり言って口うるさい。




「だから俺の方こそ何度も言うけど、瑮花を嫁にとるつもりはない。これっぽっちも」

「もう成人したというのに……。これでは日凪神社の未来が……──」




 それ以上耳を貸すことをやめ、俺は家を出た。清々しく晴れた空は俺の気持ちを映しているみたいで、なんだか心が軽くなる。

 正直父さんとああやって言い合うのも悪くない。……なんて、思ってる。

 待ち合わせ場所の〝ささくれカブトムシ〟公園へ足を運ぶと、そこにはもう、2人の姿があった。




「紫樹ー!! 久しぶり! 元気だった?」

「久しぶり、瑮花」

「コイツなら、毎日親子喧嘩するくらい元気やで」




 いたずらにそう言った徳兄を軽くどつき、怒ったふりをしてみせる。瑮花はそれを見て「ほんとだ、元気そう」と笑ってくれた。

 このところ神憑が忙しくて瑮花に会えてなかったけど、少し髪が伸びて、心なしか大人っぽくなった瑮花は、依然とあまり変わらない態度で接してくれる。




「して、なんや。話って」

「大事なことなんでしょ? 向こうで話さない?」




 そう言った瑮花が指さしたのは公園内の端にある東屋。

 確かにカフェとか人の多いところで話すような内容ではないし、まばらに人のいるこの公園の中でもいい場所かもしれない。

 そう思って首を縦に振れば、2人は駆け足で東屋へ向かった。俺もそのあとを追い、瑮花と徳兄が隣同士に座る中、2人の向かいへ腰かける。




「……実は俺、そろそろ朱紗と行かなくちゃならないんだ────」