〝紅苑家、謎の崩壊。怪我人多数〟────。

 そんな記事が世間に飛び交って約1年。やっと事態が落ち着き、紅苑一家は日凪(ひなぎ)神社を訪れていた。




「お久しぶりです」




 祭殿へと通された3人を、神憑の正装である維衣(ゆいぎぬ)に身を包んだ柴樹が出迎える。

 4人が顔を合わせるのはあの事件以来だった。




「君が柴樹くん。話は全て息子から聞かせてもらっているよ。いずみだ、よろしく」

「いずみさん。よろしくお願いします」




 雨香麗の父であるいずみが柴樹と握手を交わした時、廊下の向こうに人影が現れ、彼は陽気な態度で声をかけた。




「あ、どうも、紅苑さん。お久しぶりです」

「宗徳くん、久しぶり。同い年なんだし、いい加減敬語やめてもらってもいいかな」

「あはは! いやぁ癖ってなかなか抜けへんもんで」




 豪快に笑う宗徳に悪戯な笑みを浮かべる麗司。この2人はあの事件以降もよく会っていたため、だいぶ砕けた空気を纏っていた。




「そうや。もうあばら大丈夫なんか?」

「うん。一応、無理は禁物だって言われてるけど」

「徳兄……今日は皆お客様として来てもらってるんだ。もうそろそろ、中へ」




 少し棘のある話し方をした柴樹に、宗徳は「すまんすまん」と慌てて祭殿へと入り、紅苑一家を案内した。

 そして柴樹は祭殿の中でも一段高くなっている舞台に腰を下ろし、一家に背を向けて眼前の神棚に深々と頭を下げる。

 ゆっくりと頭を上げ、今度は神棚に背を向けて紅苑一家に向き直った。するといずみが遠慮がちに口を開く。




「宗巫様。神憑をされる前に少し、お話をいいですか」

「どうぞ。そして神憑の時以外、どうか楽になさってください」




 人懐っこい笑みをいずみに向けながら柴樹は言う。いずみもその言葉にいくらか肩の荷が下りたのか、ひとつ小さく息を吐いて話し出した。




「では……2つほど話そうと思ってね。ひとつは改めてお礼を言いたい。雨香麗が目を覚ましたのは大いに君の力があったからだと、君のお告げの力があったからだと聞いた。本当にありがとう」