月が静かに水面(みなも)を照らす夜。その雲行きは怪しく、今にも月を覆い隠してしまいそうだ。

 その日、いつも以上に寝つきが悪かった俺は布団にいることを諦め、縁側へ出ることにした。無駄に広い庭に(しつら)えられた池で健気に泳ぐ鯉を見つめ、小さくため息を吐く。

 ……胸騒ぎがする。

 そんな俺と呼応するように木々が風に揺れ、大きく音を立てた。

 次第に風は強まっていく。吹き飛ばされそうな突風が吹いたあと、俺の中から声がした。




四囲(しい)に災いを纏いし生きた魂を感じる』




 災いを纏いし生きた魂……?

 その声はもう答えてくれることはなかったが、俺はいまだ胸騒ぎを押さえられずにいた────。