最初から気づくべきだった。



彼が重病だということ。


今まで定期検診で学校を休むことがなかったこと。

この幸せには消費期限があるということ。


それらを照らし合わせれば、あの違和感の正体だって、簡単に突き止められたはずなのに。





「また来ちゃった」


病室の扉を開けて、すっかり顔に馴染んだ作り笑顔を貼りつけたまま、なるべく明るい声を出す。


こうやって心の内にある不安だとか心配だとかを覆い隠すのは、何度やっても慣れることはない。


病室の白いカーテンが、夏風に煽られて軽やかに揺れた。


「また? 昨日来たばっかりじゃん」


それでも、こうすればベッドの上の渚もつられて笑ってくれるから、無理矢理にでも明るく振る舞う。

渚が入院してからというもの、私は毎日ここに通っている。


ーーちょっと数値に異常が出ちゃって、入院することになった。


そう言った渚の声は震えてこそはいなかったけれど、普段よりも覇気がなくて、寂しいくらい淡々としていた。


「たかが一週間の現在入院なのに、皆大袈裟なんだよ」

最初に病室に足を運んだとき、窓の外を眺めてそうぼやいていた。


大袈裟なんかじゃない。

皆渚が大切だから、こんなにも心配しているんだ、



そんなことは、到底口にはできなかった。