雨の日は、いつもより周りのものが秘密めいて見える。


じわりと幽艷な色に染まった紫陽花に、すっきりした青い小花を雨に濡らす露草。優美な花弁を広げる花菖蒲。

どれもこの季節ならではの魅力に溢れていると、この間図書室の本で読んだ。


「今日も雨か……」

窓の外を見なくても、湿り気を帯びた空気と毛先の絶妙なうねり具合に、梅雨の訪れを知らされる。


梅雨はあんまり好きじゃない。

訳もなく気分がどんよりするし、止まない雨が誰かの涙みたいに見えてくるから。


そうは思っても、やっぱり朝はやってくる。


しぶしぶ瑠璃色の傘を手にして、玄関の扉に手をかけた。

傘を差して歩いていると、その中だけが別世界みたいに感じるから不思議だ。


「優希ちゃん、おはよう」

「おはよう」

一人で登校していると、宮野さんと遭遇した。

「あれ、神崎くんは?」


普段いるはずの人影が見当たらないからか、無垢な瞳で尋ねられる。

「さぁ、寝坊じゃない?」

時間が合うから大抵は一緒に登校するけれど、わざわざ待ち合わせたりはしていない。

だから、たまに私の方が早く教室に着くことがある。渚の目覚まし時計が鳴らなかったときだ。


特にそのときは気にすることもなく、宮野さんと昨日放送されていた恋愛ドラマの話をしながら登校した。