息を吐くと、目先の空気が白く濁った。


「寒い……」

例年よりも低い温度のせいか、周囲の人は皆一様に、コートやマフラーで厳しい寒さを凌いでいる。


「なんで雪降らないんだろう。降ってもおかしくない寒さだよこれ」

かじかんだ手を擦り合わせながら呟いた独り言が、隣にいない誰かさんの口調に似ていた。

それがなんだかおかしくて、一人で笑みを漏らしてしまう。くすりと笑ったはずなのに、口角はちっとも上がらない。


渚が学校に来なくなってから、もう五日。


彼は一体なんと言って、この欠席理由を誤魔化したんだっけ。確か、家の用事とかだった気がする。そんなことはどうでもいい。

学校に来なくなってもう五日ということは、私があの病室に通うようになったのももう五日目ということ。

別にいきなり酸素マスクが手放せなくなったり、車椅子生活になったと言う訳ではないけれど、病状が悪化してきたのには薄々勘づいている。

昨日会った渚のお母さんは、以前よりもやつれていた。


この寒さの原因は、ブレザーの下にセーターを重ねただけの甘っちょろい防寒対策だけではなく、隣で一緒に寒いねと言い合える人がいないからというのもあるのかもしれない。


「明日からは手袋してこよっと……」


冷たい指先をポケットに突っ込んで、病院までの道のりを急いだ。