結婚式からひと月が過ぎる。

「すごいですよ、フィオナ様。紐編みアクセサリーは大人気です!」

 最近では、髪飾りだけでなく、ブローチに仕立てたり、イヤリングに使ってみたりとサンダース商会は手広く商品開発をしているようだ。
 ポリーが金貨の入った袋を掲げてみせると、ジャラジャラと硬貨のこすれる音が鳴る。お金に困っているわけでもないのに、フィオナもこの音を聞くと心が浮き立つようになってきた。

「ありがとう。そっちの紐は?」

 袋を受け取ったフィオナは、ポリーが持っている新たな紐に視線をやる。

「できれば、商品がもっと欲しいのです……。これは材料で……」

「私ひとりで作れる量なんてたかが知れてるわ。これ以上の量が欲しいのなら、量産する体制を整えないといけないわね」

 フィオナは手元の金貨を見る。初期投資には十分な金額が集まっていた。それに、ポリーはできなかったが、紐編みの技術自体は平民でもやれる簡単なものだ。器用な人間ならすぐに覚えるだろう。

「王太子様に許可をいただけるなら、工房を作ってもいいかもしれません。街には仕事を求める女性がたくさんいますしね」

 ポリーがあっさりという。ならばそれを手助けするのもいいだろう。ただ、フィオナは自分が街の外に出られるのかがわからない。王太子妃という立場で、動こうとして許可が下りるのは、孤児院の慰問くらいだろうか。

「孤児に仕事を覚えさせるのはどうかしら」

「孤児ですか?」

「ええ。紐編みならば学がなくても習えばできるわ。孤児たちが仕事得れば、孤児院運営も楽になるでしょうし。もちろんサンダース商会が買い取ってくれればの話ですけれど」

「……それは出来栄えに寄りますね。特に高貴な方がお求めになるときは、ある程度の品質は必要になります。それに今は需要があるのです。孤児たちが技術を会得するまで待っていたら、商機をのがしてしまいます」

「そうね」

 たしかにそれはそうだ。職人が少ない今の時点で、広く人に伝えるにはどうすればいいか。
 しばらく考え、フィオナはいい考えを思いついた。

「では、高貴な方向けのワークショップをするのはどう? 自分で作ったものなら、下手でも諦めがつくでしょう。サンダース商会は材料の入手である程度のもうけは見込めるし」

「ワークショップ……ですか?」

「上流階級を呼び込むのに、側妃という立場は友好的でしょう?」

 フィオナは片目をつぶって見せた。そして、招待状をかくため、上質の便箋と封筒をポリーに頼んだ。