生誕祭まであとひと月と近づいてきていたが、特に変わったことは起きなかった。

 フィオナはいつも通り孤児院を慰問したり、広場の露天商たちの相談に乗ったりと、毎日忙しい。オスニエルが、交易のための交通路を整備する計画を立ててくれたので、その報告もすると露天商たちはにわかに盛り上がった。

 加えて、生誕祭のドレスについて、オスニエルが細かく要望を出してくるので、それの時間もとられる。

(オスニエル様はなんなのかしら)

 夜に訪問してくることも多くなった。とはいえ、お茶を飲んで帰って行くだけで、蜜事が行われたことはない。
 漠然と「今日は何をしていた」と聞かれるので、その日あったことを伝えると、オスニエルが気になったところを質問してくる。フィオナの行動が商売に直結していることもあって、経済の話になることが多いが、時々は話題が発展し、最終的に国事に関わることにまで及ぶこともある。

 フィオナはループ時代に平民の生活をしたこともあるため、彼らの不満をよく知っている。それを伝えると、オスニエルは改善案を示してくるのだ。

 日が過ぎることに、フィオナはこの時間を楽しみにするようになっていた。彼と話しているのは楽しい。フィオナの提案を、形にしてくれる彼が頼もしく思え、であればもっとより良いものを勉強にも身が入る。
 これまでの人生で、フィオナが意見を求められることはほとんどなかった。誰かの庇護のもと、もしくは支配のもと、彼女の自我は押さえつけられてきた。
 でも今は、そんな風には思わない。オスニエルはフィオナの話を聞き、自分の意見を加えて答えてくれる。

「収穫期の軍事演習は農村にとって痛手だと思いますよ」

「なぜだ? 軍備を整えることは安全のために有用だ」

「ええ。ですが、それで人手がとられ、収穫が七割になってしまったとしたら? 国を下支えするのは食物です。我がブライト王国が小国ながらこれまで他国の侵略から身を守れたのは、安定した食物供給がされていたからです」

「……ふむ」

 ひとしきり話をし、お茶をいただいていると、あくびが出てしまった。