王都では、アンセルム国王が#またしても__・__#寝込んでいた。
 セリーヌ王妃が必死に王の額に手をかざすが、いっこうに回復する気配がない。
 しばらく頭痛を訴えていたが、熱も上がってきたらしく呼吸が荒くなってきた。

「陛下、お苦しいのですか」

「苦しいに決まっているでしょう!」

 バーンとドアが開いて王太后ベレニスが入室してきた。
 セリーヌ王妃には目もくれず、息子であり王でもあるアンセルムの額に手をかざした。
 アンセルムの呼吸が徐々に穏やかになってゆく。

「この程度の不調も癒せぬとは、情けない」

「ああ……。母上、ありがとう……」
「ありがとう、ございます……。王太后陛下……」

 ベレニス王太后は不機嫌な表情のまま、王の私室を後にした。
 聖女を養成している建物に向かい、養成機関の長である神官ダニエルを呼びつけると厳しい調子で言った。

「聖女たちの指導はどうなっているのです」

 ダニエルがひれ伏す。
 皆つつがなく務めているし、王太子エドモンのために選ばれた聖女は、たいへん力のある聖女だと静かに答えた。

「アニエスの力は私も知っています。あの子なら大丈夫でしょう」
「あ、アニエスは……、その……」

 ベレニス王太后は危惧していた。
 聖女の育成が功を奏して王室が安定してくると、呪いを軽く考える王が出てくる。

 ベレニスの力のおかげで、夫である前王クレマンはほとんど病気をしなかった。
 だが、舅であるもう一代前の王コンスタンはしょっちゅう寝込んでいた。
 王妃を顔で選んだからだ。

 そして、ベレニスが気づいた時には、息子であるアンセルムも同じ過ちを犯していた。

 エドモンには力のある、本物の聖女を迎えさせなくては。
 今はベレニスがフォローしているが、いつまでも長生きできるわけではない。この先ベレニスに何かあった時、力のある聖女がいなければ王室は崩壊してしまう。

 理由はわからないが、王太子妃を選ぶ時期に一番優れている聖女は、二番目以下の聖女やほかの時期に修行を積んだ聖女と比べて圧倒的な力がある。

 ベレニスがそうだった。
 本当ならコンスタンの(きさき)に選ばれるはずだった大聖女ドゥニーズも。
 アンセルムの時の第一位だった聖女も。

 そして、アニエス……・